日本の自然を愛するものにとっては、悪夢のような破滅の日々が迫ろうとしています。
行革の名のもとに、国土のなんと二割にも及ぶ、国有林野の「分割・民営化」が、画策されています。
かけがえのない国民の自然を、お金もうけの手段にするなど、とんでもないことです。
国有林分割・民営化論の背景には、三兆円にのぼる、累積債務の存在があります。
国有林野事業がなぜ、こんな莫大な借金をかかえこんでしまったのか。
『週刊金曜日』の読書欄に紹介されていたこの小さな本は、林野庁の抱える「債務」の来歴を分析し、今後の国有林再生へのプログラムを提示しています。
累積債務の根源にあるのは、いわゆる独立採算制(林野事業に関する会計は国の一般会計とは別扱いとし、事業収入によってすべて採算をとらせるという制度)だということは、よく知られています。
民間だってそうしているのだから、国有林野だってそうしなさい、というのは、乱暴な話です。
だって、林野行政は、利益をあげることだけが目的なのではありません。
国土保全、質の高い林産物の生産、山村の雇用創出、さらにすばらしい日本の自然を享受する権利を保障するという仕事は、環境行政の枠にもはまりきらない、たいせつな仕事です。
学校の経費を授業料でまかなえ、とは、だれも言わないでしょう。
現在、各地の営林署では、自助努力の名のもとに職員が減らされるなかで、現場のみなさんががんばっておられるとのことです。頭が下がります。
国有林をこんなにまでした林野事業会計制度の問題点を明らかにし、高利の財政投融資をここにつぎ込んだ大蔵省などの責任も、問うていくべきだと思います。
私は、この「民営化」のうらには、バブルの夢の再来をたくらむ土建屋やリゾート業者の暗躍があるのではないかとにらんでいます。
この本では、債務の返済と事業の建て直しについては、十分に論じられていないように思います。
それ以前に、国民の関心が高まっていないことに、もっと大きな問題があると感じました。
(ISBN4-947637-39-0 C0036 P1545E 1996,11 リベルタ出版刊 1997,5読了)