新潟県黒川村の戦後村政史。
村政史といってもここは48年にわたって伊藤孝二郎氏が村長を務められてきたので、氏による村づくりのアウトラインをスケッチした本といっていいと思います。
昨年(2005)5月に中条町側から櫛形山脈を歩いてきましたが、山脈の北東側が黒川村で、現在は合併して胎内市になっています。
豪雪と土砂災害に痛めつけられてきた村は、半世紀に及んだ伊藤村政によって足が地に着いた、しっかりしたリゾート地に生まれ変わったようです。
10数年前に当地を襲ったリゾートブームは、全く降ってわいたようなもので、民間活力と称する巨大レジャー資本とタイアップして各種遊園施設を建設するというものでした。
これは、不動産屋と土建屋が一時的にあぶく銭をもうけただけで、バブルの崩壊とともにみごとに破綻していきました。
ポリシーと計画なき開発の正体はそんなものでした。
黒川村ではまず、人づくりから始めています。
村長以下、役場スタッフが意欲を持って取り組めば、できないことはないようにも見えます。
仕事とはまぁそのようなものなのですが、そのようなリーダーシップとチームワークを作り出すのは至難のわざです。
すくなくとも、マニュアル的な手法では絶対に成功しないでしょう。
この本を読むだけでは、伊藤村長の肉声は聞こえてきませんが、村長が半世紀にわたって常に不退転の姿勢で村政に取り組んでこられたことがうかがえます。
リーダーシップとは、ポリシーと綿密な計画に裏打ちされた不退転の姿勢のことだと思います。
伊藤村長の人づくりのメインは、海外研修だったようです。
それも頭で知識を得るのではなく、身体で何かを学ばせることによって、人間の土台をたたき上げることに主眼がおかれています。
これも、行き当たりばったりでなく、じつによく考えられた職員育成法だと思います。
伊藤村長の手法は、各種補助金を有効に引き出しながら一つ一つの事業に全力投球するというやり方だったようです。
「三位一体の改革」や町村合併によってこうした手法は通じなくなると思われます。
しかしどのような時代になっても、トップの力量とチームワークづくり、人づくりが中心課題であることには変わりがないでしょうね。
(ISBN4-480-68710-6 C0295 \760E 2005,3刊 ちくまプリマー新書 2006,1,5 読了)