長野県上田市の独鈷山に登ったあと、山麓にある無言館を訪ねました。
無言館とは、戦没画学生の遺作を展示した美術館です。
ここに飾られた絵から受ける衝撃は、感動とかいうことばで言いあらわすことができません。
作者たちが絵を描いている時点で死が迫っているわけではありません。
しかし、作者たちは確実に死に向かって進んでおり、自らそれを自覚していたはずです。
これらの絵が見るものに訴えかけてくるのは、そのような状況におかれた人間の強烈な思いにほかなりません。
わたしが感じたのは、自分たちが生きた証を表現したいという作者たちの思いでした。
人生の能書きを語るまで生きてはいない作者たちにとって、人生は可能性そのものであったと思われます。
彼らは、可能性を絶つものを糾弾するいとまがあったら、可能性を表現し尽くしたいと思っていただろうと思います。
これらの作品を目にすることができたのは、たいへん幸福なことでした。
本書は、この美術館を開設するに至る、館主の思いを語った本です。
このような美術館を作ろうと決意することも希有なことでしょうし、それが実現することもまた然りです。
受ける衝撃が大きいだけになおさら、われわれ一般人がどうしてこれらの絵を目にすることが可能になったのか、知りたいと思いました。
著者はとてもきれいな文章を書く人だと思いました。
内容はここで紹介するより、お読みになった方がよいと思います。
(ISBN4-06-209492-4 C8036 \1400E 1998,12 講談社 2005,4,18 読了)