生き物としてのヒトが、いかなる進化をたどったかをわかりやすくあとづけた本。
ネアンデルタール人を中心としてその前後にどのようなヒト科生物が存在したかを、研究史的に振り返っています。
一つの種が分化するのに、どのような契機が必要かということについて、多少考えています。
ヒトの分化もイワナの分化も、基本的には同様で、本書に「ある小集団が母集団から隔離されると、両集団の間の遺伝的違いが広がっていき、ついにはこの集団は新しい種になる」とあります。
ネアンデルタール人は10数万年前ころに、氷河期のヨーロッパに定着した人類であるとのことです。
骨太かつ頑丈な体躯と抜群の運動機能を持ち、現代人より大きい頭脳を持つ人々は、寒冷な気候に耐性を持つ人類だったようです。
熱帯アフリカで誕生した現代人類は彼らとは異なり、温暖な気候に適した華奢な体躯の持ち主です。
ネアンデルタール人は、10万年前にアフリカから西アジアを経てアジア・ヨーロッパへ進出した現代人類とおそらく没交渉なままに約1万年ほど併存したのち、3万年前前後を最後に絶滅したらしい。
生物として強力な生命力を持っているかに見えたネアンデルタール人が絶滅したのは、高度な石刃・骨角器製造技術や言語、ネットワークなどの文化を持つ現代人類によって生存の範囲を狭められたからだと著者は述べています。
先史人類学が興味深いのは、進化の謎がわかるということと共に、人類が一つの生き物であるということを、否応なく思い知らされるからです。
現代人類が生き残っていくためにどのような知恵が必要なのか、改めて考えてみたいと思います。
(ISBN4-16-660055-9 C0245 \690E 2003,6 文春新書 2005,1,27 読了)