村井吉敬『エビと日本人』

 1988年刊行と古い本ですが、鶴見良行『バナナと日本人』(岩波新書)とともに、食のグローバル化に関するリポートの先駆的な作品。

 2004末に起きたスマトラ沖地震の映像を見て、気になることがあったので読み直しました。

 気になったのは、インドネシアの海岸に密生しているはずのマングローブ林が映像の中で全く見られなかったのは、エビ養殖と関係あるのではないかということでした。

 この本が書かれたのが17年前であり、その後起きた貿易環境の激変を考えると、本書にのっている数字や養殖方法などはずいぶん変わってしまっていると思われます。
 しかしこの本は、東南アジアにおけるエビ大量生産と日本の大量輸入が始まった当時の実態をくわしく報告しているので、たいへん参考になりました。

 本書には、マングローブ林伐採の目的は、工業用地開発、道路建設、エビ養殖池開発だと書いてあります。
 1990年代以降の「アウトドア」ブームの中で、ホームセンターなどで安価な木炭がよく売られていますが、パッケージに「原料はマングローブ」と記されていることがよくありますから、現在では木炭原料としての伐採も少なくないと思われます。

 また、縁がないので全く知りませんでしたが、タイやインドネシアは、いつの間にか、北半球における冬場のリゾート地になっています。
 リゾートビーチ開発のためにも、マングローブが伐られたことと思われます。

 本書にも「マングローブ林は自然の防潮堤の役割を果している」とあります。
 津波の際、マングローブ林が残っていれば、あれほどまでに大きな被害をもたらさなくてもすんだのではないかと思います。

 もちろん、マングローブは防潮堤の役割のためにだけ存在するわけではありません。
 マングローブが生育するところは、汽水域の湿地が多く、有機質やミネラルが豊富なため、さまざまな生物が生息する、とても重層的な生態系を作り出しています。

 今回の災害は、経済的価値のために生態系を破壊したことのツケだったのかも知れません。

(ISBN4-00-430020-7 C0262 \480E 1988,4 岩波新書 2005,1,12 読了)