イラク戦争開始前後から2003年秋にかけてのイラクの政治・社会状況を分析した本。
フセインやブッシュのおこなったことの告発を目的とした本ではありません。
開戦前のイラクの政治状況やアメリカ政府内の議論などについては、目新しい事実が紹介されているようには見えません。
これらの点については、誰にも「わからない」としか、言えないのが現実でしょう。
この本にくわしく書かれているのは、アメリカがイラク戦後統治について、どのように考えていたのか、またどのような政策を実行してきたのかということです。
著者にも、多くの論者が「場当たり的」と評している占領戦略がいかなるものだったか、把握しきれていないようです。
イラク国民が軍事力による抑圧を受け入れるわけはないし、亡命イラク人を傀儡として利用するというやり方は、アフガニスタンでもうまくいっているとは言えません(というか、日本以外ではことごとく失敗している)。
イラク国民がフセイン打倒後のアメリカによる占領を喜々として迎えるはずなどないことは、承知していなかったはずがありません。
戦後のイラク社会で、宗教勢力の権威がこれほど大きいとは知りませんでした。
本書には、イラクにおける、特にシーア派宗教者の社会的位置について、くわしく書かれています。
アラブの国を統治する上で、イスラム教との折り合いをつけるのは、基本の基本だったはず。
アメリカの軍・政府はなぜ、イスラムとの軋轢を生むような占領をおこなったのか。
ともあれ、アメリカが占領統治を通じて、多くのイラク人を殺害し、財産を奪い、彼らの誇りを否定してしまった事実は動かしようがなく、イラク復興を一段と困難なものにしてしまったのは間違いないようです。
本命の石油資本は今後の展開次第だが、復興事業に参入するアメリカ企業は多少のあぶく銭を得るかも知れないし、軍需産業が引き続き巨利を得るのは確実。
短期的にもうける人がいたとしても、長期的にはアメリカを傾ける戦争になるのは避けられないのではないかと思います。
(ISBN4-00-430871-2 C0231 \740E 2004,1 岩波新書 2004,10,9 読了)