自然とともにあった人間の暮らしが破壊されるのは、文明にとって末期的なできごとなのですが、われわれは、そんな事例をいやというほど見てきました。
権力と資本にとって、ひとつの地域の人間関係を破壊し、生態系を壊滅させて、生命の環境を、鉄とコンクリートと汚物へと変貌させるのは、そうむずかしいことではないのでしょう。
だから、ダムやリゾートをはじめとする、開発事業への抵抗は、ほとんどの場合、じつに絶望的な闘いにならざるを得なかったのです。
日本列島は、そうした諦念と怨念にまみれながら構築された、数多くのむなしい工作物におおわれています。
子どもたちは、これが日本だと思って育ちつつあるでしょう。
この作品は、そんな諦念や怨念をすくいとるこころみの一つのように思います。
権力・金力によるあまたの破壊がおこなわれたにもかかわらず、こういう仕事は、とても少ない。
風成のような闘いの記録に接すると、泣けてきてどうしようもありません。
土や水とともに人生を築いてきた人びとが、血を流し、あるいは零落しながら権力と対決する姿は、なんと哀しいか。
暮らしの基盤を守る闘いは、人間としてというより、生き物としてのぎりぎりの闘いであるから、心の深みで共感してしまうからかもしれません。
(ISBN4-390-11126-4 C0193 \720E 1984,11 現代教養文庫 2003,6,10 読了)