渓流のページに、おりにふれて書いていますが、わたしは、瀬音の森という有志団体で、渓畔林再生実験の活動に参加しています。
2000年度に植栽するための苗を育て、2001年度には、奥秩父・豆焼沢への植栽をおこないました。
活動のようすについては、瀬音の森ホームページ、およびシオジ苗畑除草作業記、夢はふくらむ、300年の1年目、実現した渓畔林植栽などを参照下さい。苗採り、育苗、植栽までは、手続きや手間はたいへんでしたが、まずまず順調に、進捗しました。 苗の活着が心配されましたが、それも問題なく、気温の上昇とともに、植えた苗たちは、さかんに新梢を伸ばして、生育するかに見えました。
しかし、新梢が伸び始めてすぐに、動物による食害が始まり、ほとんどの苗たちは、一年を通して、葉を展開させることができないまま、秋には、枯れてしまいました。
食害は、わたしたちがメインに考えていたシオジをはじめ、ヤシャブシ、サワグルミなどに特にひどく、ケヤキとカツラは、盛夏を過ぎてから食害に遭いはじめました。
豆焼沢の植栽地を食害したのは、シカでした。
こうした結果にがっかりしたのは事実ですが、2002年には、シカの食害対策を施して、再度植栽を実施しようと、考えているところです。
もっとも、決定的な対策は今のところ、見あたらないでいます。
考えていた以上にきびしかった、シカの食害という現実を前にして、奥秩父の森林生態系の中で、シカがどのような位置を占めており、現在、どのような状況に置かれているか、知りたいと思っていました。
この本に出てくるのは、日光・足尾のシカの状況です。
たいへん詳しく書いてあるので、とてもわかりやすい。
この地域におけるシカの増加は、複数の原因がからまり合って起きているようです。
明治末期以来の天敵の不在化に加えて、地球規模の温暖化、狩猟の減少、足尾の緑化や造林に伴う餌の増加といった事態が進行しています。
奥秩父では、かなりの頻度で、昼間にシカを見ます。
シカの生息数は、かなり高いと思われます。
気候的にはともかく、急峻な秩父山地は、元来、シカの生息に適していないと思われます。
そこにこれだけのシカが集まっているのは、やはり正常な姿ではないのだろうと思います。
豆焼沢の苗木が食われてしまったのは、そこが偶然、シカの通り道にあたっていたからではないかと言われています。
奥秩父では、サワグルミやシオジの実生苗が、シカに食われずに育っているところは、たくさんあるからです。
冬のあいだ、シカたちの餌となるスズタケは、無尽蔵と思えるほど、繁茂していますから、奥秩父のシカは、これからも増加するかもしれないと、思いました。
となると、渓畔林の再生には、かなりの部分で、人工的な手法に頼らざるを得ない可能性があります。
これは、チト残念なことです。
ところで、この本のフィールドである奥日光・足尾周辺は、わたしのハイキングのフィールドでもあります。
一帯の景観は今でもよく覚えていますし、じつにたくさんのシカと遭遇しました。
著者は、徹底的な調査とモニタリングに基づく管理計画を提唱しておられます。
方向性としては、それしかないのでしょうが、造林や観光などによって人間の生活圏が拡大し、動物たちの生活圏を圧迫している日本では、そうした管理をおこなうことの価値について、自治体や住民のコンセンサスを得るのは、かなりむずかしいのではないかと思われます。
奥秩父のシカたちにとって、不幸な時代が来ませんようにと、祈りたい思いです。
(ISBN4-88748-022-9 C0036 \1600E 1999,2 随想舎刊 2002,1,28 読了)