題名の通り、ジャーナリストによる、警世の書。
『週刊女性』に連載されたコラムを中心としてまとめられたエッセイ集です。
社会に向かって何ごとか述べる人の、ものの言いようを見ていると、インチキくさいところを声の大きさで隠そうとしていたり、論敵を攻撃する執拗さが目についたりしてしまいます。
まるで、社会が社会を攻撃しているようで、いたたまれない気分になります。
そんな社会につながっているより、厚く積もった落ち葉を踏みながら里山を漫歩したり、土をかき混ぜながら食べ物作りをしている方が、気持ちが落ち着くのです。
社会に背を向けてしまいたい人間にとって、忘れてはいけないことがある、とは、ずいぶんよけいなお節介という気もしましたが、一読して、むしろ心が温かくなりました。
弱いものいじめと、誠実さへの嘲笑と、強者へのへつらいと、現状追認と、おそらくは作為的な虚偽報道が、現在の日本のマスメディアの主流でしょう。
しかし、問題の本質をえぐり出そうとする取材を続けてきた著者が、社会を慨嘆し、不正義を糾弾するとき、言葉の土台に、人間の温かさへの共感があるのだと感じます。
人間としてのプライドを保ちつづけることは、人間として生きる上で、譲れません。
人間は、人間としてしか、生きられないのです。
プライドが保てないと感じたとき、ひとは、自らいのちを絶ったりするのでしょう。
なにも声高に自己主張しようというのでなくても、プライドを保ちつづけることは、往々にして、少数派に属することでもあります。
ひっそりと自分らしく生きられればよいと思うのですが、どうしてもそれが許されない場合には、闘わざるを得ない局面もあります。
この本の中で著者は、混沌とした日本の現実を、いろいろな角度から切り裂いて見せてくれます。
自分らしく生きている人びとや、自分らしく生きるために闘っている人びと、未来に向かって生きようとする子どもたちへの、柔らかく、温かいまなざしを感じました。
人間や社会を論じたり、批評するときには、かくありたいと思います。
仕事柄、自戒する部分が多々ありました。
(ISBN4-478-94192-0 C0036 \1600E 2001,9 ダイヤモンド社刊 2001,11,20 読了)