チヨ・ダイ・ウラは警察の取り調べを受け、それぞれが署名捺印したその時の調書(の写し)は残っているので、彼女たちがどのようないきさつで、どのようなことをしたか、ある程度知ることができる。
秩父事件に参加し、裁判にかけられた人々は、それぞれの罪の軽重に応じて軽い人で過料50銭、重い人で死刑の判決を言い渡された。「付和随行」に該当する人はおおむね過料だった。
供述を読む限り、チヨとダイの行動は、犯罪の「教唆」もしくは「扇動」に該当するように思われる。ウラは困民党に無関係なので、もちろん無罪である。「教唆」の量刑は重懲役(9-11年)、「扇動」の量刑は軽懲役(6-8年)と決まっていたので、二人には、苛酷な刑罰が課されそうなものだが、二人の裁判言渡書が見つかっていない。無罪とは思えないのだが、その点についてはわからないとしか、言えない。
やや気になるのは、犯罪とされた行動(困民党への参加を呼びかけたこと・武器を調達して困民軍に提供したこと等)をなしたことに対し、二人がどう思っているかを、取調官が追求している点である。他の参加者に対しては、動機に関する質問を徹底的に封印しているのと、対照的だ。
以下、群馬県警・弥城友次郎警部とチヨの問答である。
弥城:(チヨの呼びかけに対し)高牛集落では、何人くらいが出てきたのか
チヨ:ふざけ半分に「困民党に出ろ」と呼びかけたら、5人ほどが出てきたので、トンダことをしたと思いました
弥城:「トンダことをした」のならなぜ、次の鳥羽集落でも同様に呼びかけたのか
チヨ:困民党とはいいことだと聞いていたので、鳥羽でも困民党加入を呼びかけました
弥城:おまえは今、「トンダことをした」と言ったばかりではないか
チヨ:トンダことをしたと思ったというのは間違い
弥城:困民党は武器を持って高利貸を襲ったことを知ってるだろう
チヨ:高利貸を打ち壊したことは知ってるけど、借りた金など返さなくてもいいわけだというので、悪いことじゃないと思います
弥城:困民党がいいことだと思って、ほうぼうでふれ歩いていたというわけか
チヨ:そのとおり
ダイの取り調べを担当したのも、弥城警部だった。弥城はチヨとダイの行動の動機に興味があるらしく、ダイにも同じことを尋ねている。
弥城:このたびの困民党の騒ぎはよいことだと思うか、それとも悪いことだと思うか
ダイ:借金を10ヶ年賦にするとか40ヶ年賦にするとかいう話なので、そうなれば困ってる人は助かると思うけど・・別に何も考えてません
弥城:仮に困民が助かるにせよ、鉄砲その他の武器を持って手荒なことをすると知ってたのではないか。
ダイ:初めはそんなことをするとは思いませんでした。だけど鉄砲を借りろとか刀を借りろとかいうので、そんな大騒ぎをせずに穏やかに話し合えばいいんじゃないかと思ってました
困民党への参加呼びかけを、やってみなとチヨにけしかけたのはダイだが、ダイは困民党なんか他人ごと的な言い方をしている。ここからダイという女性のしたたかさを感じる。






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