ブナの尾根を歩いて湿原の頂へ
−高松岳から虎毛山−

【年月日】

1999年8月12〜13日
【同行者】 単独
【タイム】

8/12 山伏岳分岐(11:30)−湯ノ又温泉(11:42)−林道終点(11:50)
   −水場(1:00)−高松岳(2:33)−高松岳避難小屋(2:50)
8/13 高松岳避難小屋(4:50)−三階森(6:20)−トエ沢森(7:30)
   −上クワ沢森(8:10)−分岐(8:40)−虎毛山(9:20)
   −分岐(10:35)−「渡渉点」(11:25)−赤倉橋(12:15)

【地形図】 秋ノ宮、鬼首峠

枯幹を抱いたクロベの大木
 赤倉橋に自動車をデポし、自転車で湯ノ又温泉へ。
 国道から湯ノ又へは、かなりの登りだったので、長距離運転の疲れもあって、山伏岳方面との分岐で力つき、自転車を降りた。

 自転車を工事の看板にロックし、重荷を背負って歩き出すが、とても暑かった。
 幅広の湯ノ又大滝を見下ろすとすぐに、湯ノ又温泉。
 ここからは、木陰の林道となった。

 湯ノ又沢は、白褐色の一枚岩の沢なので、沢足袋でぺたぺた歩くと気持ちよさそうだ。
 林道終点で小休止すると、汗が噴き出した。

 ススキの生い茂った沢沿いの道は、沢を何度も渡り返しながら続いていた。
 ある橋を渡ろうとすると、数メートル向こうで、カモシカがこちらを見つめていたが、目が合うと、身を翻して斜面を駆け登っていった。
 地元の沢で見るのより、ずいぶん大きなカモシカだった。
 そのほかにも、ノウサギが走ったり、ヤマドリが飛び立ったりしたので、生き物の気配の濃い山という印象を強くした。

 やがて、スギの造林地。
 さほど広い林ではないが、林道のないここのスギの伐採と搬出はどうするのだろうと思った。

 下流は白っぽかった湯ノ又沢は、このあたりまで来ると、鉄分を含有するらしい赤茶色。
 幹の直径1.2メートルほどの大きなクロベを見て過ぎると、やや傾斜がでてき、強い硫黄臭を発する細流を渡る。
 ここはとうてい飲用できない。

 そのすぐ先が水場。
 細いが冷たい水が流れていた。
 ここで、腹ごしらえと水の補給。
 翌日のお昼まで水場がないので、行動用水(飲用)と生活用水(炊事及び飲用予備)として、4リットルをザックに入れた。

 まわりは若いブナ林。
 豪雪地帯特有の下向きに生えた若ブナを見るのは、久しぶりだ。
 ツチカブリ、ツチカブリモドキ、オオホウライタケ、ツエタケ、テングタケ、カワリハツなどを見るが、渇水が続いていたせいか、悪くなっているのが多く、おかずになりそうなのは採れなかった。

 重荷によろめきながら尾根に登り着くと、三階森あたりから伸びる支尾根に、ほこほこしたブナ原生林。
 いいものを見て、得したような感じ。
 ただ、稜線はガスっていた。

 標高1200メートルほどで森林限界を超え、ミヤマナラ、ブナ、ナナカマド、カエデ類、ホツツジなどの灌木の中の急登。
 ハクサンシャジンやアキノキリンソウが目を慰める。

 高松岳の山頂には、比較的新しい石祠がひとつ。
 虎毛山方面はさえぎるものもないが、ガスで何も見えなかった。
 反対側の山伏岳はときどき、顔をのぞかせた。
 眼下のお花畑では、ハクサンシャジンがいくつも咲いていた。

 高松岳避難小屋は、二階建て。こぎれいでトイレ付きの、いい小屋だった。
 しいて難点をあげると、雨戸がしっかり固定されていないので、風が吹くたびにひっきりなしに音をたてることだ。
 もっとも、それもすぐになれてしまい、気にならなくなった。

 小屋にはノートが4冊あり、同時並行的に使われていたが、これでは、どれに書いていいのか、迷ってしまう。
 どれか1冊にまとめてほしいものだ。

 ひと寝入りして、夕方、目を覚ますと、風はしだいに強くなり、ガスも濃くなっていた。
 好天予想は、完全にあてにならなくなった。

 翌朝は、ガスと霧雨だったが、縦走を中止するほどでもなかったので、やや軽くなった荷を背負い、明け方の小屋をあとにした。
 ところが、山頂に向かう道を下りはじめてしばらくで、いきなり熊とはち合わせた。
 体長は70〜80センチくらい。
 去年、日光で逢ったのより、ひとまわり小さかった。

 逢ったとたん、熊は跳ね上がって、灌木のヤブに飛び込んでいった。
 かなり驚かせてしまったようだが、それにしても、すごい跳躍力だ。
 ほんとうは、逢ってからでは遅いのだが、ここから鈴をつけて歩くことにした。

 虎毛山へは、山頂直下の草付きを急降下し、南へのやせた尾根に乗る。
 踏みあとははっきりしているが、刈り払いはまったくされておらず、ガスで見通しもきかないので、ここは慎重に行った。

 高度を下げ、尾根が太くなると、ブナ林の道となる。
 小さな登降をくり返し、やや疲れたころに三階森。
 三角点は見あたらなかった。

 記念写真を撮りたいような巨ブナもあるが、本格的な降りになったので、写真撮影は不可能。
 ツエタケ、チチタケ、ツルタケ、ヒメベニテングタケ、エゾハリタケなどを、そこここで見た。
 ツエタケはすこぶる多かったが、よいのは少なかった。

 虎毛沢側が切れ落ちたところが数ヶ所あり、ガスの切れ間から、急峻な源流がかいま見られた。
 以前、春川との合流点付近まで遡行した際、ガレの流入がめだっていたが、数ヶ所の大きな山抜け崩落が目撃できた。

 トエ沢森直下の登りで、登山道の崩落が一ヶ所。
 逆コースだったら、いやなところだ。

 トエ沢森、上クワ沢森と、すてきなブナの山を越えていくと、赤倉沢登山道の出合。
 ここからは、整備の行き届いた道だが、いきなり雨足が強くなった。

 虎毛山避難小屋に着くころには、雨風ともに強まり、小屋のありがたさを痛感。
 当然ながら、だれもいなかった。
 この日は、朝からほとんど休まずに来たので、ここで大休止させてもらった。

 雨のやみ間に山頂湿原をしばらく散策。
 イワショウブ、イワイチョウ、キンコウカなどの花が、霧の中に浮かんでいた。
 イワイチョウの葉っぱはすでに、黄色くなりかけており、秋の訪れを感じさせた。

 天気が回復する気配は全くなく、じっとしていても寒くて仕方がないので、温かいコーヒー一杯飲んで、下山することにした。

 下山ルートは、赤倉沢コース。
 高松岳への分岐からいきなりの急降下だったが、あたりはブナの原生林で、いい感じ。
 驚いたことに、本降りの雨の中、数パーティが登って来るのに、遭遇した。
 虎毛山はおそらく、秋田でも、屈指の人気を誇る山なのだろう。

 ブナ林をすぎると、クロベやアスナロの林。
 夫婦桧という札の下がった、根のつながったクロベは、おもしろかった。
 なぜ、こういう木になったのだろう。

 どんどん高度を下げていくと、赤倉沢の沢音が近くなり、下りきったところが、「渡渉点」。
 増水した沢をはだしで渡渉するのはいやだなと思っていたら、そこには、立派な木橋が架かっているのだった。

 「渡渉点」からは、長い林道歩き。
 ずぶぬれになって自動車にたどり着き、宝寿温泉で汗を流して、雄勝・寒河江まわりで帰途についた。