赤倉橋に自動車をデポし、自転車で湯ノ又温泉へ。
国道から湯ノ又へは、かなりの登りだったので、長距離運転の疲れもあって、山伏岳方面との分岐で力つき、自転車を降りた。
自転車を工事の看板にロックし、重荷を背負って歩き出すが、とても暑かった。
幅広の湯ノ又大滝を見下ろすとすぐに、湯ノ又温泉。
ここからは、木陰の林道となった。
湯ノ又沢は、白褐色の一枚岩の沢なので、沢足袋でぺたぺた歩くと気持ちよさそうだ。
林道終点で小休止すると、汗が噴き出した。
ススキの生い茂った沢沿いの道は、沢を何度も渡り返しながら続いていた。
ある橋を渡ろうとすると、数メートル向こうで、カモシカがこちらを見つめていたが、目が合うと、身を翻して斜面を駆け登っていった。
地元の沢で見るのより、ずいぶん大きなカモシカだった。
そのほかにも、ノウサギが走ったり、ヤマドリが飛び立ったりしたので、生き物の気配の濃い山という印象を強くした。
やがて、スギの造林地。
さほど広い林ではないが、林道のないここのスギの伐採と搬出はどうするのだろうと思った。
下流は白っぽかった湯ノ又沢は、このあたりまで来ると、鉄分を含有するらしい赤茶色。
幹の直径1.2メートルほどの大きなクロベを見て過ぎると、やや傾斜がでてき、強い硫黄臭を発する細流を渡る。
ここはとうてい飲用できない。
そのすぐ先が水場。
細いが冷たい水が流れていた。
ここで、腹ごしらえと水の補給。
翌日のお昼まで水場がないので、行動用水(飲用)と生活用水(炊事及び飲用予備)として、4リットルをザックに入れた。
まわりは若いブナ林。
豪雪地帯特有の下向きに生えた若ブナを見るのは、久しぶりだ。
ツチカブリ、ツチカブリモドキ、オオホウライタケ、ツエタケ、テングタケ、カワリハツなどを見るが、渇水が続いていたせいか、悪くなっているのが多く、おかずになりそうなのは採れなかった。
重荷によろめきながら尾根に登り着くと、三階森あたりから伸びる支尾根に、ほこほこしたブナ原生林。
いいものを見て、得したような感じ。
ただ、稜線はガスっていた。
標高1200メートルほどで森林限界を超え、ミヤマナラ、ブナ、ナナカマド、カエデ類、ホツツジなどの灌木の中の急登。
ハクサンシャジンやアキノキリンソウが目を慰める。
高松岳の山頂には、比較的新しい石祠がひとつ。
虎毛山方面はさえぎるものもないが、ガスで何も見えなかった。
反対側の山伏岳はときどき、顔をのぞかせた。
眼下のお花畑では、ハクサンシャジンがいくつも咲いていた。
高松岳避難小屋は、二階建て。こぎれいでトイレ付きの、いい小屋だった。
しいて難点をあげると、雨戸がしっかり固定されていないので、風が吹くたびにひっきりなしに音をたてることだ。
もっとも、それもすぐになれてしまい、気にならなくなった。
小屋にはノートが4冊あり、同時並行的に使われていたが、これでは、どれに書いていいのか、迷ってしまう。
どれか1冊にまとめてほしいものだ。
ひと寝入りして、夕方、目を覚ますと、風はしだいに強くなり、ガスも濃くなっていた。
好天予想は、完全にあてにならなくなった。
翌朝は、ガスと霧雨だったが、縦走を中止するほどでもなかったので、やや軽くなった荷を背負い、明け方の小屋をあとにした。
ところが、山頂に向かう道を下りはじめてしばらくで、いきなり熊とはち合わせた。
体長は70〜80センチくらい。
去年、日光で逢ったのより、ひとまわり小さかった。
逢ったとたん、熊は跳ね上がって、灌木のヤブに飛び込んでいった。
かなり驚かせてしまったようだが、それにしても、すごい跳躍力だ。
ほんとうは、逢ってからでは遅いのだが、ここから鈴をつけて歩くことにした。
虎毛山へは、山頂直下の草付きを急降下し、南へのやせた尾根に乗る。
踏みあとははっきりしているが、刈り払いはまったくされておらず、ガスで見通しもきかないので、ここは慎重に行った。
高度を下げ、尾根が太くなると、ブナ林の道となる。
小さな登降をくり返し、やや疲れたころに三階森。
三角点は見あたらなかった。
記念写真を撮りたいような巨ブナもあるが、本格的な降りになったので、写真撮影は不可能。
ツエタケ、チチタケ、ツルタケ、ヒメベニテングタケ、エゾハリタケなどを、そこここで見た。
ツエタケはすこぶる多かったが、よいのは少なかった。
虎毛沢側が切れ落ちたところが数ヶ所あり、ガスの切れ間から、急峻な源流がかいま見られた。
以前、春川との合流点付近まで遡行した際、ガレの流入がめだっていたが、数ヶ所の大きな山抜け崩落が目撃できた。
トエ沢森直下の登りで、登山道の崩落が一ヶ所。
逆コースだったら、いやなところだ。
トエ沢森、上クワ沢森と、すてきなブナの山を越えていくと、赤倉沢登山道の出合。
ここからは、整備の行き届いた道だが、いきなり雨足が強くなった。
虎毛山避難小屋に着くころには、雨風ともに強まり、小屋のありがたさを痛感。
当然ながら、だれもいなかった。
この日は、朝からほとんど休まずに来たので、ここで大休止させてもらった。
雨のやみ間に山頂湿原をしばらく散策。
イワショウブ、イワイチョウ、キンコウカなどの花が、霧の中に浮かんでいた。
イワイチョウの葉っぱはすでに、黄色くなりかけており、秋の訪れを感じさせた。
天気が回復する気配は全くなく、じっとしていても寒くて仕方がないので、温かいコーヒー一杯飲んで、下山することにした。
下山ルートは、赤倉沢コース。
高松岳への分岐からいきなりの急降下だったが、あたりはブナの原生林で、いい感じ。
驚いたことに、本降りの雨の中、数パーティが登って来るのに、遭遇した。
虎毛山はおそらく、秋田でも、屈指の人気を誇る山なのだろう。
ブナ林をすぎると、クロベやアスナロの林。
夫婦桧という札の下がった、根のつながったクロベは、おもしろかった。
なぜ、こういう木になったのだろう。
どんどん高度を下げていくと、赤倉沢の沢音が近くなり、下りきったところが、「渡渉点」。
増水した沢をはだしで渡渉するのはいやだなと思っていたら、そこには、立派な木橋が架かっているのだった。
「渡渉点」からは、長い林道歩き。
ずぶぬれになって自動車にたどり着き、宝寿温泉で汗を流して、雄勝・寒河江まわりで帰途についた。