秣岳から栗駒山

【年月日】

1996年7月28日
【同行者】 極楽蜻蛉、友人
【タイム】

秣岳入口(9:56)−秣岳(11:06)−前岳(12:30-12:45)
−栗駒山(1:12)−須川温泉(3:00)

【地形図】 栗駒山、桂沢

縦走路にあった湿原と池塘
オノエラン

 友人との東北への釣り旅の途中、岩手・秋田・宮城三県境にある栗駒山に寄り道した。なだらかな山容とお花畑、そして湿原が見られて温泉にはいれる山として、以前からチェックしていた山だ。

 埼玉を早暁に出発したが、ハンドルリレーで9時半過ぎには須川温泉前の駐車場に到着することができた。夏休み中の日曜日とあって、いくつかある大駐車場にはすでに百台以上の自動車。おどろいたことに、駐車場のわきにはゲートボール場まであって、元気なご老人たちがプレイに興じていた。モウセンゴケの生育する高層湿原のすぐそばにゲートボール場!

 ここから直接栗駒山に登ったのではあまりにも工夫がなさすぎるので、須川に自動車をおき、栗駒有料道路を流星号(MTB)で秣岳登山口まで走って、まずは秣岳をめざしてゆるゆると登りはじめた。

 このあたりはブナの自然林で、五十年から百年生くらいのブナ壮年林である。樹林帯の中とあって風が吹かないので、かなりむし暑い。ウグイスやセンダイムシクイがさえずっていた。

 歩き始めてからすぐにウスヒラタケの生えた木ぎれを発見。ブナ山はやはり豊かだ。花はギンリョウソウ、マイヅルソウ、タカサゴソウなどめだたないものばかりだが、ぽつりぽつりとツエタケも出ていたので、今晩のおかずにいただいていった。

 ほんのひと登りで、樹林帯を抜けて稜線直下のネマガリタケのなかの切り開きに出る。展望が開けて北側が一望できるところだ。樹木の植生をはっきりと見てとることができるのでおもしろい。須川湖のまわりだけはブナを伐り残してあり、帯状に原生林があるが、そのまわりの広大な範囲が皆伐されて森が薄い。さらにその周囲にはスギが植林されている。

 秣岳登山口には生態系保護のため「入山禁止」という増田営林署の看板があったが、これだけ広い範囲のブナを伐りまくり、有料道路(今は無料)まで造らせておいて、ハイカーにはキノコひとつとるなとのたまう営林署はありがたきかな。

 あたりには残雪もあって、タテヤマリンドウ、ウラジロヨウラク、モミジカラマツ、オオバキスミレ、ハクサンチドリ、イワイチョウなど、雪田あとをいろどる花ばなに出会うことができた。ショウジョウバカマはちょっと遅くて、花がらになっていた。こうなるとシラネアオイが見えないとさびしいものだと思っていたら、ササヤブの中にちょっとした群落があってちょうど満開のシラネアオイも見ることができた。とてもおいしそうなネマガリタケがたくさん出ていたのでこれも今晩のおかずに何本かいただいた。

 尾根道との分岐を過ぎ、秣岳への登りにかかると低木の樹林帯。アカミノイヌツゲが小さな花をびっしりとつけている。ハクサンシャクナゲやミヤマナラ、ナナカマド、ホツツジなどの中をしばしの急登となる。足元にはニガナ、オトギリソウ、ネバリノギランなどが咲いている。アキノキリンソウもまもなく咲きそうだ。コバイケイソウやミツバオウレンは花はすでに終わったあとのようだった。

 秣岳のピークはさえぎるもののない大展望。これから入りこもうとしている皆瀬川源流域がのぞまれるが、もやがかかっている。足元ではハクサンシャジンが咲きそうだ。

 ここから栗駒山にかけての尾根は実に爽快な縦走路だ。少し下ると小湿原。モウセンゴケのじゅうたんの中で、トンボソウ、ミズギボシ、ワタスゲ、サワラン、キンコウカ、イワカガミなどが咲いている。ミズバショウもあるがここではもう葉が展開したあとだ。

 湿原が切れるとハイマツ帯。低木層が続くと小さな岩場。岩の上に登ってみると足元にはガンコウラン。湿原と低木林がのびやかに広がっている。湿原の中にはかわいい池塘も点在する。

 左に雪田を見て傾斜湿原を行くと、路傍に数株のオノエランが咲いていた。
 栗駒山の中では人の少ないこのコースだが、この日はたくさんのハイカーでにぎわっていた。木道のない湿原に踏みいってシャクナゲを撮影しているカメラマン、登山道ですわりこんで食事中の中高年パーティ。いずれも、私のふだんの山行きでは見かけないたぐいの人びとだ。

 栗駒山への登りはがんばりどころだ。クロマメノキやアカモノの実で目を慰めながら登りつめると、西の肩に登りつく。本峰にハイカーがうじゃうじゃしているので、ここで大休止。ぬるいビールを飲みながら景観を楽しむ。足元はるか下に見える龍泉ヶ原の湿原は人がいないので、平穏そうだ。五〜十メートルほどのかなり強い風が吹いているが、ほてったからだにはちょうどよい。

 どこからともなくルリビタキのさえずりが聞こえる。強風のなかのルリビタキ。どこかで同じようなシチュエイションにでっくわしたような気がするが思い出せない。

 雲が厚くなりはじめたので、本峰に向かう。美しいハイマツの海の中の道だ。このへんのハクサンシャクナゲは今ちょうど見ごろだった。ハクサンシャジンの花を愛でながら緩やかに登りつめたところが栗駒山で、ざっと百人くらいのハイカーがそれぞれに憩っていた。

 これほどハイカーの多い山に来たのは久しぶりだ。旅行会社のツアーでもあるのだろうか、添乗員ぽい人が記念写真を撮るから早く並べとがなり立てている。下山していく人がいるかと思えば、イワカガミ平の駐車場からアリンコのようにハイカーが登ってくるのも見える。

 下山は混雑を避けようと、北東尾根から名残ヶ原に向かう道をとった。ところがこれが失敗で、数十名の団体客といっしょになってしまった。だれかがふと立ち止まると長い行列がずずーっととどこおる。

 左が池で右が小湿原になった休み場で団体客が停まったのを幸い、先に行かせてもらった。

 ここからはガレた登山道を急降下して、須川温泉の水道になっている沢におり着く。このあたりにはズダヤクシュの花がたくさん咲いていて、可愛らしい。マイヅルソウやツマトリソウ、イワイチョウ、ハクサンチドリなどを道ばたに見ながら平坦なところを少しで、赤いサビの入った沢を渡って名残ヶ原の湿原に出る。ワタスゲ、キンコウカ、シロバナトウウチソウ、トンボソウなどが咲く気持ちのよいところだが、温泉の宿泊客がこのあたりまで進出しているので、風情はよくない。

 須川温泉までは人の波に乗ってすぐだった。