ブナ林と花いっぱいの焼石岳

【年月日】

1992年7月29〜30日
【同行者】 単独
【タイム】

ツブ沼(4:30)−石沼(6:33)−銀明水(7:40-8:30)
−泉水沼(9:35)−焼石岳(10:00)−ツブ沼(2:04)

【地形図】 焼石岳、石淵ダム

石沼から焼石連峰

 早池峰から下山したのち東北道を紫波インターからしばらく南下して一関インターへ。
 山は涼しいが、東北といえど下界は蒸し暑い。一関から横手に向かう国道をずっと行くと、焼石岳登山口の石淵ダム。
 石淵温泉で汗を流してからツブ沼登山口に向かった。
 石淵温泉は昔のレジャー施設という感じのところで老人たちがたくさん来ていて、宴会やゲートボール大会に興じていた。

 ツブ沼は石淵ダムから少し登ったところにある、なかなかきれいな沼だった。近くに大駐車場やトイレ、給水施設などがあり、ちょっとしたキャンプ場のようになっている。「レインボーつぶ沼」という看板の管理施設には誰もいなかった。
 テント場と示されたところに行ってみたが、荒れ放題に草が茂っていたため、国道のわきの気持ちのよい芝生の上にテントを張った。ここは標高があまり高くないのでテントに入ると暑くてたまらなかった。

 ツブ沼のまわりの草原にはノハナショウブ、ミソハギ、クサレダマなどが咲いていた。高山に咲くものではないのでミソハギやクサレダマはあまり見たことがない。ミソハギの大群落はなかなか美しかった。乾いた道ばたにはウツボグサ、ネジバナなど、国道の刈り払いのあとにはワラビがたくさん出ていたので、摘んでおかずにした。

 ツブ沼にはヒツジグサがたくさん咲いていた。食事をするためにラジカセのボリュームをあげてつけっ放しにしている家族づれなどがいなければとても快適なキャンプ場だっただろう。

 ようやく陽がかげってき、家族づれがいなくなると今度はオートキャンプ隊らしき一隊がやってきて、またもにぎやかになった。
 多少涼しくなったのでテントに入り、紫波で買った酒を飲んでいたら、ヨタカが鳴きはじめた。

 河原ノ坊ではガスと風のおかげでけっこう涼しかったが、ここはシュラフがいらないくらいの暑さだった。

 夜中に蚊がブンブンいっている音で目が覚めた。ヘッドランプをつけてみると、テントの中が蚊だらけだ。すでにあちこちくわれてしまった。しばらく蚊退治。一応全滅させたので眠ったがとまたブンブンという音がする。明かりをつけるとまたもや蚊だらけ。ベンチレータのネットをしっかりしばっておかなかったからだろう。

 蚊のおかげで落ちついて寝られない夜だったが翌朝はまだ薄暗い4時半にツブ沼をたった。

 この山は地形がとても複雑だ。凹地がいたるところにあり、湿地になっている。どこが尾根だかよくわからない。道も尾根もしくは沢に沿ってついていない。といってトラバースしているわけでもない。何ともとらえどころのない山だ。

 まわりはすばらしいブナの原生林。うっそうとしたブナの大木、巨木群を見ていると東北の山のプリミティブさを実感する。この地形では残雪期にはまったく自信がない。

 森のなかではホトトギス、アカハラ、ウグイス、マミジロな どがさえずっていた。地形図では登山道は岳山というピークを越えていくように書いてあったが、現在のルートは岳山は巻いていくようだ。巻き道と岳山越えとの合流点あたりでようやく尾根道となった。

 右の方になかなかいい感じの石沼を見ると下りとなり、下りきったところからまたややこしい地形がしばらくつづく。

 ミズバショウの葉がのびた湿地を通りぬけ、ヤブっぽいところをすぎると小広い湿地。そこが中沼コースとの合流点で、クロジ、メボソムシクイなどがさえずり、アヤメやオニシモツケが咲いていた。

 そのすぐ先でまた小沢を渡る。そのあたりはアヤメ、オタカラコウ、オニシモツケ、ハクサンチドリ、トウゲブキなどが咲くお花畑になっており、心がなごむ。ぬかる道をさらに行くと前方が開け、銀明水に着いた。

 道ばたの岩の間から冷たい清水が湧きだしていて、実にうまい。少し先の高台にはしっかりした避難小屋が建っていた。あたりは広場になっていてテントを張る場所もある。沢の向こうはお花畑になっていて、ミヤマキンポウゲ、シナノキンバイ、リュウキンカなどが咲き誇っている。ミズバショウもいくつか咲き残っていた。この季節にミズバショウが見られるとは驚きだ。

 静かな避難小屋で大休止。途中の倒木に出ていたウスヒラタケがおかずだ。

 余分な荷を小屋に置き、8時半に銀明水を出る。ハクサンチドリの多い道を登り、小沢を渡るとまだ残雪が消え残る雪田に出た。道は雪田のへりにそってつけられているが泥炭の上を歩くことになり木道を設置したいところだ。雪田あとにはリュウキンカ、シロバナトウウチソウ、シナノキンバイ、ジャコウソウ、イワイチョウ、ヒナザクラなどの湿性の花々が咲き乱れている。ヒナザクラがいっせいに花開いているさまはじつにすばらしかった。

 その先はいかにもクマが潜んでいそうな潅木の道で、花も一休み。

 小沢を渡るあたりから今度は草原のお花畑となる。ハクサンフウロ、ハクサンイチゲ、クルマユリ、ハクサンシャジン、トウゲブキ、ハクサンシャクナゲ、クガイソウ、 ムカゴトラノオ、ミヤマホツツジ、ウサギギク、コバノギボシ、アキノキリンソウ、ミネウスユキソウなどがいたるところに咲いていた。チングルマはやはり種子になっている。この中でもっとも多くてめだつのはトウゲブキだ。風が強いが早池峰のときよりはましなので花を見ながらの草原漫歩。

 縦走路分岐の姥石平とその先の泉水沼あたりからはエゾシオガマやネバリノギラン、さらにチングルマの花やイワカガミなど。泉水沼は頂上直下にあり、とても感じのよさそうな場所だがガスのためよく見えない。

 横岳分岐から焼石岳本峰への最後 の登り。短いがこの日初めての急な登りだ。ウメバチソウやクルマユリ、ミヤマリンドウ、イワベンケイ、ミネウスユキソウなどが咲いていた。

 頂上は風が強く、立っているのが精一杯だった。展望はまったくなし。晴れていればすばらしい山頂なのだが。休むこともできない状態なのですぐに下山にかかった。

 泉水沼あたりまで下るとずいぶんましなのでそこで一息いれ、あとは花の写真を写しながら、ひたすらツブ沼へ向かった。

 ツブ沼に着いたのは2時を回っており、焼石の大きさがよくわかった。