天気は快晴。このところ、山では雨ばかりだったので、ありがたい。
道沿いのトチの落果がはじまっている。
道ばたに咲いているのは、セキヤノアキショウジ、キツリフネ、ツリフネソウ、サラシナショウマなど、秋の花ばかりだ。
ハンゴンソウの花ももう終わりのようだ。
ここでひと息入れた。
その先で沢から離れると、ブナの自然林の中の落ちついた登山道。
ウスバムラサキシメジ、ドクベニタケの仲間、カバイロツルタケなどが出ていた。
時期が時期なので、倒木に注意しながら行ったのだが、木に出ていたのはヌメリツバタケモドキくらいだった。
この道も、疲れないようにできたよい道で、さほど傾斜があると思えないのに、いつのまにか後方に苗場山や平標山が見える高さに登りついていた。
道ばたには、オヤマリンドウ、ウメバチソウ、ダイモンジソウ、クロバナヒキオコシ、エゾシオガマ、サラシナショウマ、シラネニンジン、アキノキリンソウなどがそこここに咲いている。
最後の水場で水を補給。
ここもちょっとしたお花畑で、コゴメグサやヤマトリカブト、ミヤマクルマバナ、オニシオガマ、オタカラコウなどが咲いていた。
蓬ヒュッテに着いたのはまだ9時前。
快晴。
おかげで豪勢な展望が得られてうれしかった。
苗場山、平標山、仙ノ倉山、万太郎山、茂倉岳、一ノ倉岳、谷川岳など。
湯檜曽川左岸の白毛門、笠ヶ岳、朝日岳は目の前だが、この時間は逆光で、さえない。
湯沢町方面だけはスキー場と分譲マンションでみにくい眺めだから、なるべく見ない。
小屋の玄関先で腰をおろし、小休止してから七ツ小屋山へ。
晴れた日にこのルートを歩けるのは、とても幸運だ。
傾斜はあまりないし、谷川の主たるピークは指呼のうちにあるし、足元には花が咲いている。
この時期はコゴメグサとウメバチソウ。
はるか下に、湯檜曽川が白く輝きながら蛇行している。
七ツ小屋山手前の鞍部には小さな湿地があり、いまはイワショウブだけが咲いていた。
ゆるゆると登っていくと、清水峠の避難小屋が見えてき、湯檜曽川の本谷にかかるすごい滝がのぞまれる。
イワショウブ
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あれが湯檜曽川の大滝だろう。
七ツ小屋山まではすぐで、ここも展望をさえぎるものがなにもない。
これから向かう大源太山は七ツ小屋山よりはずっと低いのだが、岩場をまとった鋭い山容を見ると、登れるのかどうか心配になる。
ピークの先で縦走路と分かれる道にはいり、灌木にすがりながら急降下。
それまでのササにおおわれたたおやかな稜線とは一変して、けわしい岩稜。
やせた尾根にはアカミノイヌツゲ、マンサク、リョウブ、ナナカマド、ミヤマナラ、シャクナゲなど。
ナナカマドは紅葉しかけているが、実はまだ熟しきっていなかった。
シャクナゲにはつぼみがたくさんついていたので、来年の初夏にはいい花を咲かせるだろう。
ミヤマナラの葉にハナイカダのような丸いものがついているのがいくつかあったが、あれはなんだったのだろう。
しばらく急登していくと、岩場となり、五メートルほどのクライミング。
しっかりした岩なので危険はないが、高度感があるので下は見ない方がよい。
クロベやハイマツが出てくるので、いい感じ。
さらにその先でも岩場。
ここにはクサリが下がっている。
クサリの先端には引っこ抜けたハーケンがぶら下がっていたので、あまり信用せずに登ったが、支点のハーケンは一応がっちりきいていた。
その先、もう一本のクサリ場を登りきると、頂稜の一角に出た。
山頂付近はファミリーハイカーでけっこうにぎわっていた。
山頂には無数の羽アリがはい回っていて、一帯がキラキラ光っていた。
アカタテハが一頭ばたばたと飛んでいたが、アリが多くて止まる場所がないようすだった。
動くとアリが飛んできてたかるので、ハイカーたちは山頂からちょっと下ったところで憩っていた。
私はアリ飛ぶ山頂で、大休止。
ここの展望もすばらしい。
巻機山。
以前、初夏に登ったときには天気が悪く、心残りがある。
柄沢山はすっきりしたピークだ。
その右、檜倉山の頂稜は少し茶色がかっている。
湿原のようだ。
柄沢山と檜倉山の間からのぞいているのは、理屈からいえば平ヶ岳。
檜倉山と大烏帽子山の間にのぞいているのはたぶん至仏山。
背後の七ツ小屋山は、ササ原が真上からの光を浴びて銀色に輝いていた。
名残惜しいが、下山にかかる。
下山道はおそろしく急な尾根道。
はじめはクロベやダケカンバの多い岩稜。
なかなか枝ぶりのよいヒメコマツを見たあたりから樹林帯に入り、ブナの壮年林となる。
北沢流域一帯はおおむねブナ林が残っているが、傾斜が急なせいか、あまり大木はないようだ。
道沿いのブナには、ナイフのようなもので名前を彫りこんだ傷あとが多い。
いちばん古いのは大正の年号があったが、平成になって彫られたのも少なくない。
年月日と名前を記したのが多いが、同行した子どもの名前と年齢を彫ったのもある。
親バカはけっこうだが、バカ親には困ったものだ。
親子二世代にわたる恥を刻むこともなかろうに。
飽きるほど下り、沢音が近づくと、サワグルミ林となる。
渡渉点で少し休むと、あとはほぼ平坦な道となる。
ここからしばらくはブナ、トチ、ミズナラの巨木帯で、スピードを緩めて観木にひたる。
すばらしい木が何本もあって、ため息の連続。
巨木のほとんどは老木で、おそらくは数百年にわたる人生を閉じようとしている木だが、その木が生きてきた時間を思うと、人間の人生なんか、ちっぽけなものだと思えてくる。
もう一度北沢を右岸に渡ると、豪雪にやられ、いじけたスギ林となる。
流星号をデポした登山口には、たくさんの自動車がとめられていた。
ここから土樽までのサイクリングはつらかったが、湯沢町営温泉「岩の湯」で、汗と疲れを流して帰途についた。