武尊湿原入口は黄葉も終わり、地面はブナの落葉が散り敷いていた。
駐車場から小沢を渡り、ブナ林のなかを登る。
登りはじめは傾斜があるものの、下地はまあまあで、倒木があちこちにある。
もしやナメコがと思ってのぞいてみるが、ブナハリタケの出たあとがあったくらいだった。
気持ちのよいブナ林を登っていくとすぐに工事用の車道。
そこからは大きなジグザグ登りをしながら台地の上へと登っていく。
台地に登り着くと周囲が人工的に整備された小さな武尊湿原だ。
整備されているとはいえ、山中の湿原は素敵だ。
まわりはほぼブナとダケカンバの原生林。
ベンチのまわりにブナの実が落ちている。
こういうところでの小休止はからだの髄までリフレッシュさせてくれる。
ここからはブナ林のなかの散策といった風情の登り。ミズナラは見あたらない。
湿原からはネマガリタケが濃くなり、倒木が見えなくなるから、立ち枯れをさがしながら歩くようになる。
ブナの立ち枯れにブナハリタケが出ているが、すでに古くなっていた。
あと1週間早ければムキタケがまずまずとれたし、2週間早ければブナハリタケがとれただろう。
ブナが少なくなると針葉樹林となる。
今度は、何ヶ所かの倒木でスギヒラタケが見つかった。
ゆるく登っていくと武尊牧場からの登山道と合流。
合流点のやや下の避難小屋の前で小休止。
ここの小屋はとても小さいが三角屋根のしっかりしたものだった。
尾根の上にあるため水場がないのが難点といえばいえる。
尾根の上もダケカンバとシラビソで、やせた尾根のわりには展望はないが、傾斜はゆるく、快適な登りだ。
登るにつれてネマガリタケが太くなり、タケノコの季節にはよさそうな感じだが、ヤブのすごさはハンパではない。
傾斜がやや出てくると後方に至仏山、笠ヶ岳などが見えてくる。
尾瀬岩倉スキー場はブナ原生林を伐開してつくられたことがよくわかる。
スキー場の周囲から西山にかけてはすばらしいブナ林だ。
西山は山頂部だけがシラビソだがほぼ全山ブナにおおわれている。
また、笠ヶ岳の肩から南側と西側の斜面もブナ林だ。
岩の割れ目状のところにいくつかの鎖がかかっているが、鎖にすがらなければ登れないというほどではない。
鎖場を過ぎると草もみじと化した山上の傾斜湿原のわきを通り、岩でできた小ピークの下に登り着く。
あたりの植生はいよいよハイマツと低いダケカンバとなり、森林限界を完全に抜け出る。
ここは前武尊からの登山道との合流点だ。高度的には山頂の一角に着いたといえるのだが、ここからまだ中ノ岳をトラバースし本峰に向かわなければならない。
ここまで中ノ岳が山頂かと思い込んでいたのでいささかがっかりした。
中ノ岳直下には「菩薩界の水」という表示のある水場がある。
武尊を信仰している修験の人がつけた名前なのだろうが、飲むとあの世に行ってしまいそうで気持ちが悪い。
これはガイドブックなどにあるとおり「笹清水」の方がよい。
水場といっても水流があるわけではなく、渇水期とあって水滴がぽたぽたと落ちている程度だが、こんなところになぜ水が出るのか不思議に思えるほどのところだ。
中ノ岳から山頂に向かう鞍部には小さな池があり、「鳳池 群馬修験」と書かれた立て札。
池をのぞくと足の出たオタマジャクシがたくさん泳いでいる。稜線上の水たまりだから天水が流れてくるだけで、水が出ていくところはない。
かなり酸性が強いはずだが、よくオタマジャクシが生きていると思った。
それにしても下界から隔絶した武尊山の稜線にずっと生きているとすればやがて独自の進化を遂げるのではないかとも思われた。
11時すぎに山頂着。
ほぼ快晴で周囲の見える山はみんな見えている。
昼寝をしたいところだが、自動車のところまでかなりの距離があるので、12時前に下山にかかった。
武尊湿原のブナ林ではがんばって倒木さがしの笹ヤブこぎをしてみたが収穫はなにもなかった。