鈴鹿の山とは、どのようなところなのだろうか。
先年より、訪れてみたい気持ちが高まっていたのだが、仕事や植林ボランティアやイワナ飼育などの雑多な用事がぽっかり空き、3日間のゆとりができたので、思いきって出かけてみることにした。
306号国道は、道路崩壊のため、鞍掛トンネルの先、三重県側で通行止めとなっていた。
せっかく自転車を積んできたのだが、自動車が通れないのでは、しかたがない。
鞍掛橋登山口から、直接、歩き出すことにした。
林道の沿う伊勢谷は、それなりの水量があるのだが、堰堤の連続で、無惨な渓相となっていた。
それでも、あたりはすっかり春の風情で、ミソサザイやウグイスがさえずり、キブシやミツバツツジ、ダンコウバイが、谷筋を彩っていた。
しばしで、石灰岩がごろごろした御池谷に入る。
春なのに、ここからはほとんど水流がない。
背後に三国岳が望まれるようになると、早くもガレの源頭状のところ。
ネコノメソウ、ヨゴレネコノメ、ヤマアイなどは咲いているが、ニリンソウ、トリカブト、キクザキイチゲ、ミヤマカタバミなどは、まだ芽ばえたばかりだった。
風が強いため、背後を流れる雲がとても速い。
ヤマガラやシジュウカラの声を聞き、キツツキのドラミングに、思わず樹冠を見上げるようになると、そこここに残雪を見る。
コバイケイソウやフクジュソウが目に入ると、元気が出る。
鈴ヶ岳への道は、雪の下になっていたものか、見つからなかったので、鈴北岳に向かった。
カルスト地形が観察できる小ピークからは、一転して、ササの中の道。
踏みあとが明瞭なので、問題はなく、展望のよい鈴北岳。
ここからすぐ南、ドリーネやカレンフェルトが点在する風景は、おれの目には、たいへん珍しく見えた。
日本の山の地形・風景の奥の深さをしみじみと感じた。
広大な頂上台地を横断し、ひと登りで、浅い樹林の中に開けた御池岳の山頂。
まだ開葉していなかったし、ガイドブックをろくに読まずに登ったとはいえ、オオイタヤメイゲツの林を観察しなかったのは、不覚だった。
ここで大休止。
山頂から北へ急降下すると、鈴北岳・真ノ谷・コグルミ谷・御池岳へ、それぞれ向かう、変形十字路。
少し平坦なところもあるが、コグルミ谷に入ると、かなりの急傾斜で、国道の出合う登山口まで、一気の下りだった。
こちらは少し暖かいのか、ミヤマカタバミ、ハナネコノメ、ミノコバイモ、キクザキイチゲなどの花を眺めながら歩くことができた。
コグルミ口からは、国道歩き。
鞍掛トンネルの中は、風が強く、たいそう寒かった。
車道歩きに嫌気が差して、急斜面を伊勢谷に飛び込んだら、ここはずっと二面護岸がされており、沢から道路に上がることができずに、困惑した。
やっぱり沢から上がれなくなったカモシカの死体なんかも見たが、おれは、倒木を立てかけて乗り越えるという手を使って、脱出することができた。
天気に恵まれ、初めての鈴鹿歩きは、たいへん気分良かった。