坂本行きのバスには、普段あまり乗客がいないのだが、この日は単独の登山者1人を含め14人が乗っていたので、座席はほぼ埋まり、運転手さんも驚いただろう。
坂本に着いた時には小雨模様だったが、この時点ではいずれ雨はあがると考えていた。
雨具とザックカバーをつけて身支度を整え、国道を少し歩いて登山口から山道に入った。
最初は暗いスギ林の中の道だ。
歩きやすいが、周囲の景色には見るべきものがない。
大岩で小休止したのち、八丁峠への急登にかかる。
周囲はなかなかよく紅葉していたが、長い登りが続いて、景色を楽しむ余裕はあまりなかった。
ヌメリスギタケが出た立ち枯れがあったが、パーティ行動なので、見るだけにとどめて、通り過ぎざるを得なかった。
ようやくの思いで八丁峠に立つと、苦しい登りから解放される。
雨は相変わらずしとしと降っており、ときおり風が吹き過ぎるとじつに冷たかった。
穏やかなのは最初だけですぐに、鎖の下がった岩場が出てくる。
八丁尾根でもっとも厄介なのは、西岳から風穴へ下る途中の足がかりの少ない大岩だと思う。
この岩は、岩角も丸くて滑りやすいので、雨天の下では、鎖に全体重をかけて、突っ張って下るしかないと思う。
風穴で数人の登山者とすれ違い、垂直の鎖場を登ると竜頭神社の奥の院に着く。
奥の院に来たのは久しぶりだ。
鎖場はさらに続き、こんどはナイフリッジの通過となる。
ここは、鎖をつかんでトラバースするのでなければ、またがって通過した。
八丁尾根の核心部を通過している間に、雨がやんでいたのは、幸いだった。
東岳の登りにかかった時には、北側のガスがさっと晴れて、一瞬ではあるが、西岳や二子山が見えた。
東岳へも鎖場が続く。
この登りで会った二人づれの登山者が、八丁峠から東岳までの鎖場は合計23ヶ所だと言っていた。
東岳も休憩適地だが、時間的にきびしくなってきたので、休まず通過。
東岳からは、距離は長いものの、鎖場はぐっと少なくなるので、スピードが出る。
直下の鎖場をクリアするとようやく、剣ヶ峰に着いた。
時刻はほぼ4時半だったから、あと20分ほどで完全に暗くなる。
何の展望もないので、少しの休憩中にヘッドランプを用意して、早々に下山にかかる。
急なところを下りはじめてすぐに周囲が暗くなった。
両神神社・御岳神社の前を通るころには、完全に真っ暗になった。
去年も歩いてよく知った道とはいえ、雨にぬれて水滴のついたヘッドランプ越しにルートを見極め、木の根や石ころに気をつけながら慎重に下った。
ここから産泰尾根への下降路はさほど険しくないとはいえ、5ヶ所くらいの鎖場がある。
最後の鎖を下りきるとほどなく、七滝沢分岐の道標を見る。
ここまで来れば、あとは淡々とスズヶ坂を下るだけだ。
漆黒の闇の中なので、清滝小屋はずっと見えなかったが、無事に小屋にたどり着くことができた。
時刻は18時を回ったところだった。
中をのぞいてみると、先客は誰もいなかったので、昨年に引き続き、小屋を使わせていただくことにした。
同行者がみんな疲労困憊している上、小雨も降っていた。そんな状態だったので、正直言って、これは助かった。
今回は、小屋の水場がよく出ていたので、ありがたかったが、先客が炊事場をひどく汚していた。
管理人がいないので、小屋をきれいに保つのはとても難しいのだろう。
あまり綺麗とはいえなかったトイレは、新しい水洗トイレに改築されていた。
2日目
夜中にトイレに行くと、風もなくよく晴れており、月明かりがとても明るくて、ヘッドランプがいらないくらいだった。
この様子なら、2日目は下山するまで天気が持つかと思ったし、天気予報は秩父地方の雨の降り出しは午後からと言っていたのだが、起床時刻の6時前にはガスがたれこめて、またも小雨が降っていた。
山の天気を予測するのは、ほんとにむずかしい。
いくらか軽くなったザックを背負って下山にかかるが、前日と比べてなんと楽なことかと思ってしまう。
八海山の手前あたりでは、朝早くから登ってきた多くの登山者とすれ違った。
この人たちも天気予報を信じて登ってきたのだろうが、剣ヶ峰に行っても何も見えないだろうと思われた。
薄川の源流を渡り返しながら下るところは、このコース中もっとも美しいと感じる。
黒い岩場と紅葉し始めた広葉樹のコントラストがきれいだった。
会所まで下ればもう、下山したも同然だ。
立派な杉並木を眺めながら、予定よりやや早く、日向大谷に着いた。
バス停近くにあずま屋があり、バスが来るまで雨宿りすることができて助かった。