三峰口から雲取山

【年月日】

2012年5月12日〜14日
【同行者】 全部で9名
【タイム】

5/12 三峰口駅(11:01)−大陽寺入口(11:46-11:56)−東大演習林東谷作業所前(13:01 幕営)
5/13 東谷作業所前(4:57)−林道あずま屋前(6:15-6:27)−お清平(7:25-7:35)−白岩小屋(8:40-8:50)
   −芋木ノドッケ(9:29)−大ダワ(10:07-10:15)−雲取山荘(10:33-10:50)−雲取山(11:15-12:00)−
   雲取山荘(12:19)(幕営)
5/14 雲取山荘(5:29)−白岩小屋(6:38-6:45)−霧藻ヶ峰(7:39-7:50)−三峯神社(8:41)

【地形図】 雲取山、三峰 ルート地図

一日目(東谷演習林まで)

 三峰口駅から雲取山まで登ったのは初めてだった。
 三年前に酉谷山経由のコースを登ったときは、同行者がみんな疲労困憊して、雲取山荘にたどり着くのが精一杯だった。
 さて、今回はどうかなと思いながら、三峰口駅を出発した。

アミガサタケ(大きな写真)
春浅いお経平付近

 長い国道歩きだが、歩道がずっとついているので、さほどハラハラせずに大陽寺入口まで行けた。
 足元には、セリバヒエンソウが咲いていたが、写真を撮っている暇はなかった。

 半分よりやや手前になるが、大血川橋のところにあずま屋があるので、ここで休憩した。
 ここから、幕営地の東大演習林東谷作業所前までのあいだの路上で、32年前に政治経済を教えたSさんと、釣友のJさんに遭遇した。
 なかなか珍しい出会いだった。

 大血川集落の手前で、左手の山腹から、威嚇するような声が聞こえていたが、それは猿だった。
 猿の出る集落は、本当に気の毒だ。

 着くのが早かったので、作業所の建物裏のスペースにテントを張るよう、指示された。
 日の当たらないところだが、まわりにテントがないので、比較的静かに過ごせそうな、いい場所だった。

 片付けのためにテント場周辺を歩いてみると、モミジガサがあちこちに出ており、アミガサタケも一つだけだが、出ていた。

ニ日目(雲取山まで)

 釣り場前の参道を登り始める。
 スギやモミの大木があって、いかにも古い参道らしい道である。
 荷は重いが、さほど急でないので、あまり苦しくはなく登っていけた。

 大陽寺に着いたら、宿坊の宿泊者に迷惑にならないように静粛にしながら、境内をすばやく通過して、山道に戻った。

 周囲はすっかり明るくなり、新緑の色濃い自然林に、ウグイス・ガビチョウ・ツツドリなどのさえずりが聞こえていた。
 車道を渡り、トラバース気味にしばらく行くと、ベンチのある水場。
 あまりよい水とは思えなかったが、使えないことはないと思われた。

 二回目に車道を渡ると、傾斜が急になり、そろそろ休みたくなるが、すぐに休憩予定地の三番目の車道に出た。
 空は真っ青で、新緑がとても鮮やかだった。

 この先は、この日前半の正念場だ。
 とはいえ、地形図で見るほど急な登りではなく、同行者諸君の登りながらの雑談もほとんど途絶えることがなかった。
 馬鹿騒ぎをするのは傍迷惑だが、多少賑やかに登るのは、登行の苦しさも紛れるし、けっこうなことだ。

 霧藻からゆるく下って行くと、高い白岩山が立ちはだかる。
 このあたりでヤマザクラは、ようやく咲き始めたばかりだった。

 お経平のカエデ類はまだ全く芽吹いておらず、ハシリドコロと花の咲いてないアズマイチゲが点々と生えていたが、ニリンソウの芽生えも見えなかった。
 ニリンソウは鹿に食われてしまったのだろうか。

 ここから白岩山までは、危険なところはないが、急登が続く、この日後半の難所である。
 とはいえ、この日のパーティはさほど苦もなく、冗談を交えながら、淡々と登っていた。

 明るい自然林に、ヒガラ・ヤマガラ・ミソサザイ・キクイタダキ・ルリビタキ・ヤブサメなどがひっきりなしにさえずっていた。
 前白岩あたりまで登ると、ネズコやコメツガが多くなり、常緑樹の森となるが、これまた風情のよいところである。

 前白岩では、、まぶしいほどにくっきりとした富士山や先日登ったばかりの飛竜山が見えたので、しばらく立ち止まってしまった。

前白岩からくっきりと富士山
同じく前白岩から北岳

 その先、いつものように、白岩小屋裏の展望台で小休止した。
 ここは、大洞の本谷や市ノ沢が、下部から少しずつ新緑に覆われつつあり、巨大な和名倉山と東仙波周辺、甲武信三山などが一望できる、第一級のビューポイントである。

 ここまで来れば、この日の登高で苦しいところはなくなったようなものだ。
 芋木のドッケへの直登路は、拍子抜けするほどに緩斜面で助かった一面、倒木が多く、障害物競走のようなコースには少々手を焼いたものの、あっという間にピークを越えた。

 大ダワ周辺では、バイケイソウが鮮やかに芽吹いていた。
 バイケイソウの芽吹きは、山菜であるギボウシの芽吹きに似ているので、確か今年も死亡中毒事故が起きている。
 毒草とはいえ、それを食べて中毒する人間が悪いのであって、植物に悪意があるわけではない。
 おれは、バイケイソウの芽吹きはとても美しいと思う。

白岩小屋から北アルプス
バイケイソウの芽生え

 雲取山荘へは、男坂を行った。
 男坂といっても、さほど急傾斜なわけではなく、コメツガの樹林帯を淡々と行く。
 バイカオウレンは主に陽の射さないところに咲くのだが、この時期の針葉樹林を華やかにさせてくれる、可愛らしい花だ。
 ここの登りで、雲取山荘従業員のMくんに遭遇した。
 彼が、おれの名を呼ぶなり、派手に転倒したので、びっくりした。
 Mくんは、以前より身体つきもがっしりして、たくましくなっていた。

 雲取山荘に着いたのち、空身で山頂に向かった。
 雲取山の山頂に来たのは今回で多分、6回目だが、こんなによく晴れた雲取山は、初めてだった。

 富士山、南アルプスほぼ全山を従えた飛竜山、甲武信ヶ岳・国師ヶ岳を中心とする奥秩父の主脈、和名倉山と両神山、山を一々見分けることはできないが、遥か彼方の北アルプスも、豪快に見えており、浅間山の残雪はずいぶん少なくなっていた。
 あまりの絶景に奥武蔵・奥多摩の低山にほとんど目が行かなかったのは申し訳ないが、それほど、遠大な展望を得ることができた。

雲取山で富士山と正対する(大きな写真)
白峰三山を従える飛竜山(大きな写真)

 風もなく、まずまず暖かかったので、おれは三角点の横でしばらく、昼寝をして過ごした。

 たっぷりの大休止をとっても、下山にかかったのはちょうどお昼だった。
 この日の午後も、テントの中で、うつらうつらしながら過ごした。
 毎日の仕事を終えると、正直言ってボロ雑巾のように疲れてしまう。
 睡眠も、ちゃんととっているつもりだが、寝不足感が常時残っている。

三ツドッケ・蕎麦粒山
原三角測点

 ところがこの日は、メインザックを背負って標高差1000メートル以上を登り下りしてきたにもかかわらず、疲労感はまったくなく、たいへん爽やかな気分だったし、当然ながら眠気も解消していた。
 不思議なことである。

 この日のテント場はもちろん、貸切でなくパブリックなスペースだが、騒音を発するパーティがあったのは、あきれた。

 夜中に馬鹿騒ぎをすれば、他の登山者の迷惑になる。
 それが原因で雲取山荘から出入り禁止を食らっても、自分たちには関係ないと思ってるのだろうか。
 はたまた、山の常識を知らぬ若者のために眠りを妨げられた一般の登山者が、睡眠不足が原因で転滑落事故を起こしても、自分たちには関係ないと思っているのだろうか。

 昼間は暖かかったが、陽が落ちると一気に冷えてきた。
 とはいえこの夜も、自分が山にいることを忘れるほど、しっかり眠ることができた。
 夜中に鹿がテント近くに来て、吠え立てていた。
 この鹿は、われわれが到着したときに、テント場にいて、しきりにお辞儀をしていた家族の一員だっただろうか。

三日目(三峯神社まで)

 朝はそれなりに冷えたが、相変わらず好天で、小屋前からは、酉谷山から登るご来光を眺めることができた。
 この日は下山するだけだとはいえ、登り下りもあって歩行距離も長い。
 すっかり明るくなった5時半に、やや軽くなったザックを背負って出発した。

バイカオウレン1(大きな写真)
バイカオウレン2(大きな写真)

 早朝は涼しいので、とても歩きやすい。
 ルリビタキ・コガラ・ヒガラの歌が相変わらず、聞こえていた。

 約1時間で白岩小屋着。
 メボソムシクイやエゾムシクイの声を聞いたのは、このあたりだった。

バイカオウレン3(大きな写真)
酉谷山から陽が昇る(大きな写真)

 ここからこの日の難所である白岩山の下りにかかる。
 後ろから追いつく登山者もおらず、落ち着いて歩ける状況だったから、怪我などしたら馬鹿らしいので、集中力を切らさないよう同行者たちに声をかけた。
 このようなところはことさら、ていねいに歩いたほうがよい。

ミツバツチグリ
神領民家前のアズマシャクナゲ(大きな写真)

 お経平を過ぎ、霧藻ヶ峰への最後の登りにかかる。
 ここも急登でないので、苦しくない。
 ヤマザクラがここでようやく咲き始めたところだった。

 霧藻ヶ峰でこの日2度目の小休止。
 あとは緩く下るだけなので、さすがに緊張感がほぐれる。

 三峯神社への長い下りでは、炭焼平周辺の自然林がいつも楽しい。
 イヌブナやミズナラの新緑が鮮やかで、足元には、タチツボスミレ・エイザンスミレ・ワチガイソウ・ミツバツチグリ・ホソバテンナンショウなどが咲く。

 緑を楽しみながら歩いて行くと、左下に三峯神社能舞台が目に入った。
 神領民家前のシャクナゲ園は、例年にまして見事な花を咲かせている最中だった。