ミズナラ大木の道
 | ブナの道
 |
車窓の外は曇り案配ながら、天気はもちそうだったのだが、奥多摩駅手前のトンネルを抜けたとたん、人家の屋根が濡れているのがわかった。
想定外の雨だったが、駅を下りてみると、山行にはほとんど影響しない弱い霧雨だった。
東日原に向かう西東京バスは、車内放送でちょっとしたバスガイドをやってくれる。
倉沢から日原への長いトンネルでは、過去の地滑りによって発生した大災害のことを話してくれて、歴史の勉強ができた。
郵便局の先からコンクリ道に入り、人家の間を縫って登っていく。
日原は、秩父でいえば栃本のような急傾斜地に立地する村だ。
獣害よけのネットが張られた中で、秋野菜が育っているが、荒れた畑も多い。
集落を抜けるとスギ林の登り。
きついジグザグ登りなので、汗が噴き出す。
アカマツの大木を見ると鉱山のフェンスわきを通って、尾根に上がる。
ミズナラが多くて、いい森だ。
滝入ノ峰の巻道に入ると、傾斜がゆるんでらくになる。
谷側がスギで山側はミズナラの美林だ。
再び尾根に出たあたりは、ミズナラの巨木林でブナの大木も散見された。
倉沢からの道を合わせたところで小休止。
小屋前のウリハダカエデ
 | シイタケとクリタケ
 |
ここからは傾斜もさほどでなく、ミズナラ巨木を堪能しながらのんびり登っていく。
ブナが多くないので、ナメコやムキタケは見つからなかったが、クリタケやシイタケが出ていたので、今夜のおかずに摘んでいった。
ガスの舞う避難小屋に着いたのはお昼過ぎ。
まだ早いので、先客はなし。
銀マットを敷いて、6人分の就寝スペースを確保し、まずは水くみに行く。
前回ここで泊まった冬には完全に枯れていた一杯水は、細いながらもとぎれることなく出ていたので、助かった。
それでも炊事用と翌日の行動用の水を汲むのに、30分近くはかかったと思う。
その後、みんなで薪集め。
ストーブ内部を掃除してから点火したが、煙突がひどく詰まっているらしく、本体から煙が出てきて、小屋の中が煙だらけになった。
気温も高かったので、ストーブはその後使わずじまいだった。
見たところ、家の煙突と構造はほぼ同じだったので、ワイヤ付きの煙突ブラシがあれば、分解掃除できそうだった。
しかし、煙突掃除も管理者が行わねばならないとすると、なかなか手間のかかることだ。
夕方、単独のハイカーが入ってきたので、小屋を独占というわけにはいかなくなった。
静かな山を楽しみたい方にとって、高校生はうるさかったかも知れないが、前回、小屋前で幕営していた大学生の喧しさに比べれば、はるかにましだったのは事実である。
陽が落ちて、5時過ぎにはみんな眠ってしまったのではなかろうか。
翌朝は5時に起きて、6時に出発。
まずは三ツドッケをめざす。
小屋わきから急な道を登っていき、二つ目のピークが三角点峰だ。
南側が広くなっていて、石尾根や奥多摩の山並みが一望できる。
はるか向こうには、富士山も薄く見えていた。
第3ピークあたりはブナ林。
立派な樹が並んでいて、雰囲気がよい。
水源林道に出てからはほぼ、尾根の南側を巻いていく。
七跳山には登らずにパス。
坊主山先の鞍部が矢岳への分岐。
矢岳への道は木の枝で柵してあり、「この先登山道消滅。引き返す勇気を持て」などと記してあった。
このルートは今まで2度歩いているが、いよいよ道が消えたのだろうか。
やがて左前方に酉谷避難小屋が見えて来るとまもなく、尾根への急登で、尾根上のブナ林を登っていくと、しばらくぶりの酉谷山に着いた。
酉谷山南面の伐開は、東京都の山がよく見えるようにということなのだろうが、ヤブに埋もれていた山頂の方が雰囲気はずっと良かった。
ともかく、ここからは大岳山、御前山、石尾根、富士山、丹沢などがよく見えており、樹林越しに雲取山、芋の木ドッケ、白岩山なども望むことができた。
酉谷山から望む富士山
 | 坊主山(左)、小黒(中)、酉谷山(右)
 |
酉谷山から熊倉山への尾根は、うって変わって細い踏みあとを行く。
小黒へは苔むした倒木の中を下り、急登する。
小黒から熊倉尾根へは、北へのゆるやかな尾根に引き込まれやすいが、ここは西へ急降下しなければならない。
ここで久しぶりにルートミスをした。
枯れたスズタケの中をしばしで、大血川分岐。
どんどんとばして、1452メートルピーク先で小休止。
埼玉側の尾根も紅葉がきれいだが、緑色の葉っぱもまだ残っていた。
1451メートルピークへの登りは、ここまでの縦走の疲れもあって、かなり苦しい。
その先、地形図上は穏やかだが、実際には岩峰の急な登降があるので、体力をけっこう消耗する。
樹間から秩父市内が見えるが、先はまだ長い。
熊倉山南東ピークの肩が、熊倉展望台(仮称)だ。
18年前にもここで絶景を楽しんだのだった。
ちょうどお昼前でもあったので、迷わずここで大休止。
背後に坊主山・小黒・酉谷山が3つ並ぶ。
東谷を囲む山稜は長沢背稜。
最高点は芋ノ木ドッケなので、ここから雲取山は見えない。
芋ノ木ドッケから白岩山とたどると、目の前は霧藻ヶ峰。
縦横に走る林道が、よく見える。
この夏あの林道で毎日、一緒にザックの積み下ろしをした同僚が感慨深げに、眺めていた。
妙法ヶ岳の向こうに甲武信三山。
そのはるか彼方にも高い山が見えるが、金峰山あたりだろうか。
両神山も無傷でよく見えていた。
眼下の東谷は紅葉真っ盛りで、会津などに比べればはるかに小規模だとはいえ、美しい紅葉が見られた。
熊倉山まで来ると、ハイカーの姿も見えて、ずいぶん里近くまで来た実感がわく。
山頂手前に、寺沢コースは工事中で通行止めのため、城山コースか林道コースを通るようにという表示があったので、少し話し合ったのち、城山コースより林道コースの方が穏やかだろうと考え、林道コースを下山することにした。
林道コースは、熊倉山北西の2つのピークを巻き、急降下とトラバースを繰り返しながら白久に向かう。
ここの下りにはイヌブナがすこぶる多い。
奥多摩側ではほとんど見なかったイヌブナが秩父側に多いのは、日照の関係だろうか。
トラバースはともかく、ロングコースを登降してきただけに、急降下はかなりこたえた。
立派に手の入ったスギ林を一気に下ると、崩壊寸前の営林署小屋。
見晴らしは悪いが、ここで小休止して、疲れを癒す。
里山とはいえ、熊倉山から登山口までの標高差は1000メートル近いから、あまりどんどん下ると足を痛めそうだ。
小沢を渡ってしばらく行くと県造林で、植えたヒノキ苗に、食害防止のビニールネットをかぶせたはいいが、その後の世話をしないため、枯れたり蒸れたりしていて、かわいそうだった。
再び急降下するところは、トチの壮年林。
トチの落ち葉が斜面を埋めた様子は、なかなかのものだった。
ルート自体は二万五千図とずいぶん違っているが、谷津川べりの登山口は地形図通りだった。
かつてずいぶん賑わっていた白久駅前の旧スケート場が広い荒れ地と化しており、草だらけになっていたのもまた、時の流れを感じさせた。
|