晩秋の長沢背稜
−酉谷山・芋ノ木ドッケ−

【年月日】

1999年11月23日
【同行者】 単独
【タイム】

大日向(7:00)−クイナ沢橋(7:35)−熊倉分岐(8:55)
−酉谷山(9:45)−長沢山(11:15)−芋ノ木ドッケ−
(12:25)−白岩小屋(12:55)−おキヨ平(13:40)−
大日向(15:00)

【地形図】 武蔵日原、雲取山

白岩山から大洞の谷を見下ろす
 最近は、ひまを見つけては、道路ぎわにたまっている落ち葉(柴)を熊手でかき集め、畑にうない込む作業ばかりやっている。
 土壌を柔らかくして、来春からの農作業に備えるためだ。

 来年春のきのこの植菌のための、原木の伐採作業も、もう少し残っている。
 冬が来る前の時期は、いろいろと気ぜわしい。

 今日は、約3ヶ月ぶりの山登り。
 大日向の釣り堀近くに自動車をとめ、足ごしらえをして、東谷林道へ。
 大血川は、大日向で、東谷と西谷に分かれる。
 どちらも、知った渓だが、わたしは、東大演習林のある東谷が好きだ。

 盛りを過ぎた紅葉だが、カエデ類の宝庫ともいえる奥秩父の自然林は、まだまだ十分に魅せてくれる。
 ここの目玉は、ケヤキの人工造林地。
 葉を落とした、背高のケヤキがとてもみごとだ。
 落葉が豊富なだけに、とても豊かな林相と思える。

 ちょうどよいウォーミングアップで、クイナ沢橋先の登山口。
 手製の道標に導かれて、山道に入るあたりは、自然林だが、二次林。
 アセビの下生えに、イヌブナ、ヤマザクラ、カエデ類。
 モミはけっこう太いが、原生のものほどではない。

 落ち葉を踏みながら、ぐんぐん高度を上げ、東谷の渓音がひびいてくると、この夏、何度か入渓したこの渓の渓谷美が思い出される。

 スギ・ヒノキの植林地が、数ヶ所。
 どこも、幹近くに、シカによる食害対策の荷造りテープが巻いてあった。
 これはこれで有効なのだろうが、木が太り、テープが切れたところは、地面にテープの切れ端が散乱していて、とても汚い印象を受けた。
 ここを改善するのが、この方法の課題であるだろう。

 最後の植林地を抜けたあたりで、若いブナの群生地。
 下生えは、スズタケだ。
 何となく、将来が明るいように思える、気持ちのよいところだった。

 熊倉山分岐から小黒への登りは、かつてはひどいヤブだったのだが、ずいぶん歩きやすくなっていた。
 以前は、小黒直下から酉谷山との鞍部にトラバースするヤブ道があったはずだが、それは見あたらず、小黒へ直登する明瞭な道が見つかった。

 急なところを登っていくと、コメツガとモミの重厚な樹林。
 とてもいい雰囲気だ。
 モミぽっくりとツガぼっくりが落ちていたので、友人のみやげにいくつか拾っていった。

 小黒ピークは、展望はないが、黒木とシャクナゲの生えた落ち着いたピークで、樹林の伐られた酉谷山よりはるかに気持ちがよかった。
 ここからいったん下って、登り返すと、お久しぶりの酉谷山だった。

 酉谷山は、秩父名黒ドッケ、もしくは大黒(おおぐろ)。
 双耳峰をなす小黒は、山渓の分県ガイドには、「おぐろ」とルビがふってあるが、これは「こぐろ」と読まねば意味をなさない。

 いつの間に作られたものか、山頂には、ゴミの山ができていて、三角点標柱と背比べをしていた。
 こまったものだ。

 切り開かれた山頂からは、石尾根の向こうに、大岳山や御前山が意外に近く見えていた。
 酉谷小屋にも寄ってみたいが、今日はまだ先が長いので、そうそうに西に向かった。

 一昨年は、ツツジ咲く新緑の季節に歩いた水源林道だが、今日は完全な冬枯れの道だ。
 ブナの立ち枯れにブナハリタケが出たあとがあったが、すでに食べられなくなっていたので、助かった。
 この日のコースできのこ狩りなど始めてしまったら、どんなに急いだって、日が暮れてしまう。

 尾根の右手(北側)には、両神山、三峰山、和名倉山などが、樹林越しに望まれる。
 水源林道は、いつ来ても、歩きやすくて、気持ちがいい。

 タワ尾根を乗っ越すと、天祖山の採石場が醜い姿をあらわした。
 おりしも、発破の時間となり、サイレンが鳴り終わると、爆破音が山にひびいた。
 近所の山でも毎日、これをやっているが、いかにしても無惨で、むなしい。

 天祖山の分岐を過ぎても、歩きやすい道が続いた。
 少しずつ高度を上げていくと、足元には、黒茶っぽく葉色を変えたイワウチワの群落。
 周囲には、いくぶん葉を丸めたシャクナゲもある。
 植物たちは、来るべき冬に備えて、しっかり身構えているようだ。

 1818ピークの手前は、モミとヒノキの暗い樹林帯。
 ここのヒノキは天然物だろう。
 木の根の露出した急登を過ぎると、一転して落葉した若いダケカンパ林で、いっきに明るい。
 このあたりは、林相の変転著しく、歩いていてちっとも飽きない。

 芋ノ木ドッケへの登りは、木の墓場のような枯れ木帯。
 これは、伊勢湾台風の被害のあとだという説明が、白岩山に立っていたが、20〜30年生のコメツガやシラビソが新しく倒伏しており、幼樹がほとんど生えてこないまま、ダケカンバ林に遷移しつつある。
 この光景の原因を台風にだけ、求めるのは、まちがっていると思う。

 芋ノ木ドッケに登り着くと、東京側は枯れ木帯だが、秩父側は、コメツガやシラビソの重厚な樹林帯。
 ここまでずいぶん早足で来たので、ひといき入れた。

 三峰方面に降りていくと、巻き道が出合うところに、「芋ノ木ドッケ」という立派な標柱が立ててあって、とまどってしまう。
 ここからは、雲取山登山道となるので、人通りが激しく、山のそこここから、人の話し声が聞こえた。

 少し下って、白岩小屋。
 ここは、和名倉山や大洞川のすばらしいビューポイントだ。
 市ノ沢、惣小屋谷、井戸沢の食い込みが、大迫力で望まれた。
 和名倉山の左には、遠く、三宝・甲武信・木賊の三山が見えた。

 急なところをさらに下って、おキヨ平。
 霧藻ヶ峰に登り返す元気が残っていないので、ここから下山することにしたが、百人以上はいると思われる団体さんと遭遇してしまった。

 各自が熊よけの鈴をぶら下げ、大声で話しながら歩いているので、にぎやかなことこの上ない。
 「ちりん、ちりん。じゃらじゃら。がやがや」
 「ちりん、ちりん。じゃらじゃら。がやがや」
 札所めぐりの巡礼ツアーだって、これほどにぎやかではあるまい。

 太陽寺の境内にも、団体さんが休憩していたので、大日向まで、一気に下った。

 意外に早く下山できたので、さっそく熊手と箕を出して、畑にすき込むための、落ち葉かき。
 ミズナラや各種カエデ類など。
 ずいぶん、奢った肥やしになった。

 畑に寄って野良仕事をしているうちに、日が暮れた。