重厚な自然林を歩く
−天祖・酉谷・矢岳−

【年月日】

1998年5月4〜5日
【同行者】 単独
【タイム】

5/4 東日原(7:55)−登山口(8:45)−大日神社(9:35)
  −天祖山(10:55)−御供所分岐(11:30)−酉谷山
  (1:10)−酉谷小屋(1:20)−
5/5 酉谷小屋(5:00)−矢岳分岐(5:15)−矢岳(7:15)
  −事上沢の頭(8:30)−大反山(9:20)−越集落(9:55)
  −武州中川駅(10:15)

【地形図】 雲取山、武蔵日原、秩父

酉谷山の朝

 あまりひさびさに奥多摩に出かけたので、青梅線はなんという駅で乗り換えるのか、忘れてしまっていた。
 拝島からは、ハイカーが多く、満員。

 東日原のバス停を降りると、無情の霧雨。
 それにしても、日原川は釣り人だらけだ。
 渓相はすこぶるよいが、車道から河原のゴミが見えている。

 ずいぶん歩いてようやく登山道入口。
 いきなり、重荷がこたえる急登だ。
 最初はジグザグ、やがて尾根上の急な登りがどこまでも続く。

 自然林なので小さな雨音もリズミカルだ。
 これがスギ林では、こうはいかない。

 少し平坦になり、杉木立になると大日神社。
 なかなか荘厳な雰囲気のところで、雨宿りをかねて小休止。

 スズタケがめだってくるが、昨年開花でもしたものだろうか、このあたりのスズタケはみんな枯れていた。
 シカは困っているだろう。

 いつしか雨があがり、陽が射してくると、背後に石尾根がのぞいてきた。
 ようやく傾斜がゆるみ、人家のような建物を過ぎると、天祖神社のある山頂。
 南側が伐採されているが、なにも見えなかった。

 ゆっくりしていたら、団体さんが登ってきたので、北へ下る。
 御供所を経由する下山道は、現在通行止め。
 水松山へは、尾根の東を巻いていく。

 周囲は、ときおりカラマツ植林が点在するものの、おおむね重厚な原生林。
 東京都は、いい山を持っているものだ。

 枯れた水場を過ぎると、雲取山への道標が立つ、水源巡視道。
 ここはいつ来てもよく整備されている。

 光あふれる緑の中に、ヤマザクラとオオカメノキ、アセビが満開。
 足元にはコミヤマカタバミが下を向いていた。

 ダケカンバの多い酉谷山への直登ルートにもササ刈りが入っていて歩きやすいが、朝から菓子パン三つで行動してきた疲れが来て、つらい。

 酉谷山は、新しい道標が立ち、南側が切り開かれて、ずいぶん様変わりしていた。
 以前は樹林帯の中にぽっかりあいた、静かな小空間だったはずだが。
 南の山並みが見えるようにとの配慮だろうが、よけいなことだ。

 プヨがうるさいので、そうそうに山頂を辞し、今宵の宿の酉谷小屋に向かった。

 酉谷小屋は木の香りも新しい、きれいな小屋だった。
 無理につめ込んで10人くらい、適正な宿泊可能数は6人くらいだろうか。
 この日は、都合5人がこもごも交流しながら、快適な一夜を過ごした。

 翌朝は、明け方になって気圧が急上昇。
 快晴の夜明けとなった。
 雲海の中に七ツ石や鷹ノ巣が浮かび、彼方には白い富士山がしだいに陰影を強める。
 明るくなると、山じゅうのウグイスがいっせいにさえずり始め、その音だけでもびっくりするほどだ。

 5時に小屋を出て、一杯水方面に向かう。

 坊主山を巻くと、矢岳への分岐。
 尾根の上に登ると、雪で倒れたスズタケのヤブに、早くも道が消滅。
 ここは地形図を見ながら慎重に行った。

ミツバオウレン
 ササヤブを抜けて、右に行くと、足元にはミツバオウレンが可愛い花を咲かせていた。
 牛首に降り立てば、この先のルートはさほどむずかしくはない。

 このあたりで聴いた鳥は、トラツグミ、コマドリ、ヒガラ、メボソムシクイ、アオバト、ルリビタキ、クロジ、コルリ、ヤマガラ、ジュウイチ、ツツドリ、アカハラ、ヤマガラなど。
 小鳥たちにとっても、いい季節になったようだ。

 岩まじりの尾根とササヤブが連続するが、樹間から小黒や大黒(酉谷山)が近く見え、西の雲海上では、熊倉山の向こうに両神山が鋸歯だけをのぞかせていた。

 地形図で見るより、アップダウンが多い感じ。
 岩稜をふり仰げば、アカヤシオ。
 しかし、東京側にくらべて、林相の貧しさは、歴然としている。  スズタケのヤブはしだいにひどくなり、衣服は朝露でずぶぬれ。
 エボシ谷へのエスケープルートを分け、ヤブをひとこぎでようやく矢岳。

 西面からの登山道で遭難事故が連続しており、このルートを通行する人は地形図とザイルを用意されたいというプレートが下がっていた。

 ササヤブのひどいのはここまでで、あとは尾根をはずさないように行くだけだ。
 自然林が姿を消し、単調な植林が多くなる。

 事ガ沢の頭で左に曲がると、送電鉄塔。
 このあたりは雲海の下らしく、ガスの中。
 鞍部から大反山(若御子山)への登りが案外きつい。
 この日、某所でヒラタケの群生を見つけてしまったため、重くなったザックが肩に食い込む。

 大反山は愛想がないので通過。
 その先で、大きな黒い猟犬に遭遇。
 散歩代わりに放したものだろうか。
 しばらくつきまとっていたが、「どこから来たの?」「道は知ってるの?」と根ほり葉ほり聞いてやったら、どこかへ走り去った。

 大反山からは長くて急な下り。秩父鉄道の踏切がちんちん鳴る音が聞こえるが、人家のあるところまではけっこう長かった。