西武秩父で始発に乗れば、8時半の栄和交通バスに乗ることができる。
これなら大弛峠を10時ごろに出発できるから、日の長い季節であれば16時過ぎに甲武信ヶ岳に至ることは可能だと思われた。
過労状態と睡眠不足が数日間続いていた上、気になることがあって朝4時前に職場に立ち寄ったりしたので、電車に乗り込んだ途端に意識を失った。
八高線・中央線と乗り継いだが、ほぼずっと眠っていたので、車窓からの景色を見た記憶がない。
塩山駅の改札を出ると、予約していたハイカーに声をかけるタクシー会社の人が並んでいて、好ましい。
タクシー乗り場のある北口には、たくさんのタクシーがスタンバイしており、ハイカーが次々に乗り込んでは出発していた。
栄和交通のバスは相変わらず盛況だった。
バスでもずっと眠っていた。
柳平でジャンボタクシーに乗り換えたあたりで、いくらか眠気がとれてきた。
天気はなかなか良好で、車窓から金峰山がときおり見えていた。
予想してはいたが、大弛峠の駐車場には自動車があふれかえっており、路肩にとめた車が峠のかなり下までつながっていた。
ごった返す峠から国師ヶ岳へ登る人はさほど多くなかった。
このあたりはシャクナゲの群生地なので花がたくさん咲いているかと思いきや、アズマシャクナゲの花はひとつも見なかった。
歩きにくい階段道は、前国師で終わり、国師ヶ岳までは平坦な登山道となる。
国師ヶ岳に着いてみると、金峰山は見えたが、その他はほとんどガスの中だった。
甲武信ヶ岳への道に入るとハイカーの姿はほとんどなく、シラビソやコメツガの静かな樹林帯を行く。
国師からずっと、下りが続く。
下ってばかりなので、歩程は意外に進む。
足元には、バイカオウレンやミヤマカタバミ・ヒメイチゲがちらほら咲いていた。
ミヤマカタバミはとくに多かった。
樹林帯の2236メートル峰で休み、次に展望のよい両門ノ頭で休んだ。
よい天気ではあるのだが、富士山は雲に隠れていた。
ミズシへの登りはそこそこキツイので小休止を入れた。
このあたりから甲武信ヶ岳にかけて、ピンクのコイワカガミが稜線のあちこちに咲いていた。
越後のゴージャスなイワカガミを見慣れているので、ずいぶん貧相に見えるが、これはこれで十分美しかった。
千曲川からの道を合わせるとハイカーが激増する。
甲武信ヶ岳への急登をこなすと、山頂にはずいぶんたくさんのハイカーが休んでいた。
到着時刻は16時を回っていたので、この混雑は意外だった。
それにもまして驚いたのは、甲武信小屋のテント場が超満員で、ほとんどふさがっていたことだった。
急いで手続きをすませ、トイレ前の平坦地に設営した。
そのあともいくつかのパーティが到着し、われわれの隣や一部登山道までがテントで埋まった。
小屋泊まりのハイカーもたくさんいたはずだから、甲武信小屋は、見たことがないほどの混みようだった。
安易な夕食をすませてツェルトに入るとほぼ瞬速で眠りについた。
夜中の1時過ぎにツェルトを雨音が叩いた。
雨が降るとは思っていなかったので、困惑したが、完全に上がりはしなかったものの、本降りにもならなかった。
食事・炊事は小雨の中で行い、撤収もひどく濡れることなく、何とかすませた。
予定通り、4時前に出発。
木賊山には登らずに、巻き道を行った。
前日に引き続き、下りメインの歩き出しとなった。
曇ってはいたが、北側の雲はずいぶん薄くなった。
木賊山の下りで展望が開ける。
秩父市方面はよく見えなかったが、これから登る破不山がずいぶん高く見えた。
笹平の避難小屋で小休止しているときにはまだいくらか降っていたが、破不の登りにかかると雨がやんだ。
西破不から東破不にかけては、基本的に樹林帯だが、露岩のある展望地がときどき出てくる。
両神山が雲に洗われている様子は、なかなかの光景だった。
ここまで見ることができなかったアズマシャクナゲが、このあたりでようやく、咲いていた。
東破不で小休止。
目の前にそびえる雁坂嶺に向かって下るのが惜しいが、雁坂峠のベンチも見えていたので、頑張る気になれる。
雁坂嶺へは最後の急登だと思って黙々と登る。
以前来たときには展望皆無だった記憶があるのだが、疎林のピークという風情だった。
雁坂峠はスルーするつもりだったが、のびやかな草原に着いてみると、腰を下ろしたくなる。
かつてはお花畑だったところだが、キンポウゲとシロバナノヘビイチゴがちらほら咲いているだけで、ヤマハハコやイワインチンが少しだけ芽吹いていた。
雁坂小屋に向かって下り始めると、オサバグサが花盛りだった。
オサバグサは鹿に食われないのだろうか。
小屋で水を補給させていただき、突出尾根を下る。
下りといっても、最初はずっとトラバース道で、ちょっとした登りもある。
しかし荷がずいぶん軽くなっているので、苦しくはない。
尾根道に比べて、樹林が重厚でしっとりしており、野鳥の声もずっと多い。
秩父に帰ってきたという実感がする。
オサバグサもしばらく咲いていた。
樹林帯でイチヨウランが咲いていたのには、ちょっと感動した。
長いトラバースが終わると本格的な下りになる。
ダルマ坂を下ってやや平坦な道となり、さらに下って樺小屋で小休止。
ここから東大演習林になり、カラマツやブナ・ミズナラの大木を眺めながら整備された道を下る。
水ノ元までの下りも長く、そろそろ疲れが出てくるところである。
道路に出てからややスピードが落ちたが、バスが出る10分ほど前に川又に無事、着くことができた。
バスに乗るとまた、瞬速で眠ってしまった。
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