風は明け方にはやんだが、テントから出てみるとガスが立ち込めており、この日も展望は期待できなかった。
天気がよければ千代蔵の休場へ道草して夜明けの風景が楽しめるかと思ったのだが、さっぱりダメなので、下山ルートに直行した。
二瀬分岐あたりの踏み跡の薄い部分を上手にクリアして、苔むしたピークを西から巻き、北のタルへと下る。
苔に覆われた世界が、夢のように美しい。
苔の世界を歩いていた時に、東方の樹林からオレンジ色の太陽が顔を出した。
標高約2000メートルのピーク(笹ッパ)の巻き道に入ると苔の道が終わる。
再び尾根に出たところが索道あとの広場で、小休止。
ここから二瀬尾根の本格的な下りが始まる。
しばし下って行くと、スズタケの枯れたヤブに突入する。
枯れているので歩きやすいとはいえ、ぼんやりしているとルートを見失う。
とくに標高1610メートル付近で尾根が広くなって傾斜が緩むあたりは要注意だ。
だらだら下って、標高1550メートルからいきなり急降下となる。
ここでスピードが一気にダウンしたが、たまたま登山道沿いにマタタビがずっしり実ったツルを見つけたので、マタタビ摘みをしながら下った。
ここで一人の登山者と遭遇した。
二日間を通して、登山者らしき人とすれ違ったのは、この人だけだった。
造林小屋あとの水場でひと息入れたが、この下りで時間をかなり食ってしまった。
軌道のあとは平坦な道だが、倒木がうるさいので、荷物が大きいと歩きにくい。
予定の時間より1時間早く出発したのだが、反射板あとの広場に着いた時には、予定よりやや遅れてしまっていた。
ここまでそれほどゆっくり来たわけではなかったので、予定していた行動時間の想定が甘かったのではないかと思う。
熊ハギ
| 大洞吊り橋
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ともかく、ここからまだ、標高差にして約800メートル下らなければならない。
気持ちを入れて、急降下にかかった。
スピードは上がらず、予定していたパスに乗るのはきびしいと感じたので、一旦小休止し、「マイペースで行くのがよいけれど予定のバスには乗れないかもしれない」とパーティに伝えると、その後、心なしかペースが上がったような気がした。
立派なスギ林の下降になると吊り橋は近い。
大洞吊り橋は一度に5人しか渡ってはいけないことになっていて、渡るのに少々時間を食ってしまったが、どうにかバスに間に合いそうな時間に車道に出ることができた。
そこでちょうど小雨が降り始めたのだが、バス停まであと少しだったので、そのまま早足で歩いていった。
バス停につくと雨はあがって、陽射しが出てきたが、秩父に戻ってしばらくすると、土砂降りの雨になった。
それを考えると、この日この時間に下山できて、よかったと思った。