これまで、雁坂峠方面に出かけるのは晩秋が多かった。
何度か歩いたことがあり、早春の突出尾根は、初めてだった。
ブナの道
| 天然カラマツ
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電車とバスを乗り継いで、登山口の川又へ。
以前は、秩父湖で村営バスに乗り換えたのだが、今は、遊湯館で市営ワゴンバスに乗り換える。
車窓から見ると、標高700〜800メートル付近から上に、降ったばかりの雪がついており、ルートの雪深さが思いやられた。
よく晴れて風もなく、いい天気だったが、西から気圧の谷が近づいているはずだった。
久々の重荷を背負って、しばらく国道を行き、登山口から山にとりつく。
雁坂道は、急激な登降をさけて楽に歩けるよう、尾根道とトラバースをうまく組み合わせてある。
取付き部分は、国道工事に伴う法面崩壊がおきたものか、峠道が崩落したあとに擁壁が築かれており、取り付きの位置は昔とは異なっていそうな感じだ。
最初はスギ・ヒノキの植えられた県営林。
すぐに大正11年に建てられたコンクリート道標を見る。
在郷軍人会と青年団の手によって建てられたものだ。
大正11年とは、のちの昭和天皇と后が結婚した年だから、おそらくそれを記念して、このような道標が日本中に建てられたのだろう。
樺小屋
| カラマツ大木
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水ノ元あたりで早くも、積雪があらわれる。
その先、登りが急になるあたりからは雪が多く、ワカンをつけて登る。
雁道場、さらには滑沢の分岐を過ぎて平坦になると、ブナやミズナラの大木を見ながら歩くようになる。
突出峠からはカラマツの植林地と天然カラマツの森になる。
雪が一段と深くなった頃に、樺小屋に着いた。
計画では雁坂小屋で幕営だったが、体力的にも時間的にも、ここが限界だった。
樺小屋の水場は5分下るという表示があるのだが、実際にはもっと下らなければならない。
水場への踏み跡は急傾斜で、この積雪の中では、とうてい下れない。
従って、炊事・行動用水には、雪を使う。
小屋に着いてすぐに水作りを始めたのだが、気温は氷点下3度くらいなのに、セパレート型のガスコンロは元気がなく、なかなかはかどらなかった。
その日と翌朝の炊事用水および行動用水を7人分作るのに、4時間以上かかったと思う。
いつものように、早く寝てしまった。
気温が低いので、翌日用の行動用水は、シュラフに入れて眠った。
寒くはあったが、眠れないほどではなく、ぐっすり休むことができた。
樺小屋に泊まった時点で、十文字峠周回は断念せざるを得なくなった。
パーティで話し合い、2日目は10持30分をタイムリミットとして前進することとし、目標を東破風とした。
雁坂小屋へのトラバース部分に問題がなければ、雁坂峠まで進むのは十分可能だと思われた。
この日の夜は気圧の谷が通過し、明け方には冬型になるという予報だった。
夜中に用足しに出てみると、月明かりが明るく、空には満天の星がきらめいていた。
風もなかったので、まだ冬型になっていなかったのだろう。
翌朝は、明るくなりかけた頃に荷を軽くして出発。
青空から雪が落ちてくる不思議な天気だった。
快調にラッセルしてダルマ坂・地蔵岩分岐と過ぎたのだが、豆焼沢源頭のトラバースにさしかかったところで、進行困難となった。
枯れ沢にかかる壊れかけた橋の手前が、氷の上に薄く雪の乗った状態になっていた。
強引に進もうとすると滑落するので、手がかりになる立木のあるところを巻こうとしたが、うまく巻けなかった。
そこを通過した先は、さらに傾斜が強くなり、ルートがわからない。
おそらく、岩棚状のところに雪が詰まっていたのだろう。
ここを通過するには、滑落しないように注意しながら手探りでルートを探さなければならないと思われた。
それは、初心者を含む同行者の安全を考えると、得策とは思えなかった。
支尾根を急登して雁坂嶺に直登する手もないではなかったが、なにぶん傾斜が急なので、うまく行ける保障はなかった。
となれば、退却するしかない。
峠までさえ行けないのは残念だが、天気のよいうちに引き返したほうがよいと考え、即時撤退と決めた。
時間には比較的余裕があったのだが、トレースを下るのは早い。
ガレ場状のところからは、飛龍山から和名倉山にかけての山々がよく見えた。
せめて甲武信ヶ岳が見えないかと思って、地蔵岩展望台に寄ってみたが、雁坂嶺と破風は見えたものの、甲武信方面は雪雲に隠れていた。
ここで滑落しないように記念写真を撮り、展望台を尻すべりで降りたのだが、これがなかなか楽しく、同行者が歓声を上げたのは微笑ましかった。
和名倉山を望む
| 朝の小屋前
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樺小屋に戻ってみると、まだお昼過ぎで、天気も悪くないのに、気温は氷点下5度だった。
この日も、夕方近くまで、水作りに追われた。
下山の日は、川又を9時前に出るバスに乗るべく、少し早く小屋を出た。
一昨日のトレースが残っていた上、雪がかなりクラストしていたので、ワカンがほとんど不要なほど歩きやすくなっていた。
登りに5時間かかったルートだけに、3時間半で下れるかどうかわからなかったが、ペースは驚くほど快調で、雁道場まで、1時間もかからなかった。
結局、川又に着いたのは7時半で、バス停周辺にはまだ、陽光が射しこんでもいなかった。
まもなく陽が射してき、暖かくなったが、バスが来るまで1時間半近くも待ったこの日のスピートは、意外なほどだった。
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