ひさびさに、重荷を背負った山歩き。
菅沼に自動車をデポして、自転車で丸沼へ。
丸沼入口で自転車を降り、立て札にロックして、歩き出した。
さすがに、足元がおぼつかない。
ホテルの前をつっきり、湯沢に沿った道を行く。
湯沢には、砂防堰堤が数基、築かれており、川は死んでいた。
最後の堰堤を越えると、登山道は沢から離れ、ジグザグに急登していく。
樹林帯なので、夏山にもかかわらず、目を慰めるものがとても少ない。
花は、カニコウモリやゴゼンタチバナなど。これらの地味な花に感謝だ。
よく見ないと見落としそうなほど小さな、アリドオシランの群落が数ヶ所。
この花の写真を撮るのはたいへんだ。
標高1600メートルを超えると、アスナロの樹林帯。
こういうところにはきのこも少ないのだが、フサヒメホウキタケ、イタチタケ、ヒラタケ、ホウキタケの仲間、チシオタケなどが目についた。
展望もなく、急登の連続だが、一年ぶりの夏山とあって、ぬかるみのにおいも、まとわりつくアブの羽音も、好ましい。
案じたほどの疲れもなく、2時間ほどで湯沢峠。
奥鬼怒の山と渓が眼下に見えた。
下っていくと、こちらもアスナロ林。
メボソムシクイやルリビタキが陰気にさえずっていた。
キンチャヤマイグチ、マスタケ、アメリカウラベニイロガワリ、カワリハツ、ヒラタケなどが点々。
おかず用に、ヒラタケだけはいただいた。
根名草沢の沢音が近づくと、心が和む。
河原に降り立つとまだ9時半。
急ぐ旅ではないから、ザックと登山靴を岩陰にデポして、沢足袋に履き替え、しばし毛鉤を振ってみたが、期待はずれに終わった。
気を取り直して再び山支度をし、日光沢に向かった。
オロオソロシ沢を渡渉すると、すぐにヒナタオソロシ滝展望台。
ベンチがあったので、ここで小休止。
ヒナタオソロシ滝は急傾斜の連瀑だが、展望台からは距離があるので、あまり迫力を感じなかった。
ちなみにオロオソロシ滝は、一部が足元に見えるのだが、全体を見ることはできなかった。
急降下すると、鬼怒川源流の渓音がうれしいが、いきなり堰堤で、気落ちさせられる。
上から二番目の堰堤の上が、鬼怒沼との分岐。
堰堤に分断された渓を見下ろしながらしばしで、日光沢温泉に着いた。
幕営したいと申し出ると、一帯は幕営許可できないが、鬼怒沼との分岐付近の河原は黙認せざるを得ないという趣旨のご返事。
「のぞき見厳禁」の貼り紙のある野天風呂を使わせていただいたのち、ふたたび上流に戻って、テントを張った。
ここは、急な増水には対応不能、落石にも一抹の不安のあるテン場なので、おすすめでない。
ビールを飲んで昼寝をしていたら、若い男女数人が来て、何ごとか騒ぎながら渓に石を投げ込みはじめ、たった一本架かっていた丸太橋を破壊して去っていった。
いったい、あの人たちは、何をしに来たのだろう。
酔いが醒めたので、またも釣り人と化して、オロオソロシ沢やヒナタオソロシ沢の出合う一帯を叩いてみたが、やはり無反応。
腕が悪いから、仕方がないが、重いイワナ顔写真撮影セットをせっかく持ってきたのだから、ひとつくらい掛かってほしかった。
日光沢温泉
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翌朝は、5時に行動開始。
日光沢から根名草山へは、長くて急な登りだ。
日光沢温泉のすぐ上に、サニーレタスやインゲン豆の植わった畑。
ここでの百姓は、獣害との戦いがたいへんだろうと想像できる。
畑を過ぎると、トチの原生林。
なかなかみごとな巨木に出会えた。
トチ林を過ぎると、やはりアスナロが多い。
三本の幹をたてた大きなアスナロと、記念写真を撮った。
長い急登がゆるむと、手白沢への分岐。
この先、アスナロはほとんど生えておらず、代わってシャクナゲ(ハクサンシャクナゲ)があらわれた。
シャクナゲの白い花もちらほら。
根名草山への道は、地形図にある破線路とは全くちがっていて、尾根の西側をずっとトラバースして、ガレ場を三つ渡り、最後に前衛峰と根名草山の鞍部に急登する。
このうち、二つ目と三つ目のガレ場は地形図に記載されており、安定しているが、一番最初のガレ場はまだ不安定なので、慎重に渡る必要がある。(積雪期の横断は不可)
ようやく登り着いた根名草山は、展望もなかなかよい。
下界は雲海に隠れていたが、会津駒ヶ岳と燧ヶ岳は、望むことができた。
残念だったのは、日光連山がガスの中だったことで、ま裏から見る日光はどんなふうか、見てみたかった。
ここからは、急な登降はなくなる。
少し下りはじめたやせ尾根の上から、奥白根山と菅沼が真正面に見え、すぱらしかった。
なんといっても、奥白根山は、高くてかっこいい山だ。
シラビソとコメツガの森となり、シラビソの立ち枯れがめだってくると、念仏平。
一見すると、シラビソ特有の世代交代現象のように見えるが、幼樹の葉枯れがめだつ。
この原因が酸性雨によるものかどうかはわからないが、幹を食害された木に葉枯れが多いように感じた。
避難小屋の前で食事をとり、ゆっくりと下山にかかる。
太郎山や男体山が、ガスの切れ間からときどき顔を出す。
金精道路が見えてきたころ、ササ原のへりにクルマユリが一輪。
夏山らしい花にやっと会えた。
金精峠から菅沼への道を歩いたのは、約10年ぶりだが、ひどく荒れてしまっていた。
コマドリやアカハラのさえずりに励まされて、菅沼駐車場に着いたのは、お昼過ぎ。
捻挫した足のテストを兼ねた山行だったので、二日間、意図的にゆっくりいったのだが、無事に終わってうれしい。