日光の奥座敷
−錫ヶ岳から奥白根−

【年月日】

1998年9月26〜27日
【同行者】 Nさんと極楽蜻蛉
【タイム】

9/26 西の湖入口(8:20)−避雷針小屋先水場
  (11:30-12:00)−林道終点(12:50)−県境尾根(1:45)
−錫ヶ岳(3:20)−錫の水場(4:00)
9/27 錫の水場(6:30)−白檜岳(7:40)−白根隠山
  (8:10)−奥白根山(10:15)−丸沼スキー場第7リフト前(12:55)

【地形図】 男体山、丸沼、中禅寺湖、皇海山

奥白根から望む錫ヶ岳

白根隠から谷を隔てて奥白根

 千手が浜に向かう低公害バスには、たくさんのハイカーやカメラマンが乗っていた。
 まだ朝も早いのに、ずいぶんたくさんの人が小田代原あたりで三脚を立てていた。

 西の湖入口でバスを降り、外山沢川にかかる橋を渡って柳沢川沿いの林道へ。

 戦場ヶ原界隈など、人目につくところは、観光客から自然を守る手だてがされているが、このあたりは一面のカラマツ林。
 相当の大面積で皆伐され、植林されたようだ。

 植えられたカラマツが成長し、それなりに落ちついた風景を作りだしているが、いつかはまた皆伐され、無惨な光景が見られるのだろうか。
 「日光国有林」の、もう一つの顔を見た思いだった。

 林道のわきには、このところの雨で出たものか、きのこがにぎやかだった。
 食べられるのは、チャナメツムタケ、スギヒラタケ、オシロイシメジ、ホテイシメジ、ハナイグチ、コガネタケ、キシメジなど。
 ツチスギタケの群生も多かった。
 先も長いので、このあたりのきのこは見るだけ。

 川では、イワナの夫婦が産卵場所を求めて、仲良く遡行していた。

 約1時間で柳沢川の渡渉点。
 Nさんは飛び石づたいに軽く渡るが、私のコンパスでは届きそうもないので、はだしで渡渉。
 かなり増水した水が冷たかった。

 ここからの林道は崩壊箇所が多く、ほぼ廃道だが、道型は残っていた。

 最初の小沢を渡る手前で、前方約30メートルほどのところを、体長1メートルほどのツキノワグマが歩いているのを発見。
 クマには気づかれなかったので、じっくり観察することができた。

 クマの歩く姿は、力強くて、美しい。
 そしてリズミカルだ。
 あれが、人間の失くした、野生のリズムなのだろう。

 林道はさらに荒廃し、ガレ場の横断がたくさんあった。

 ネギト沢への下降点でさらに林道を行くか、それとも宿堂坊西のコルへ沢登りをするか思案したが、先日Nさんが来たときより増水気味なので、沢はパスし、林道をさらにつめることにした。

 山の傾斜が少しゆるむと、道がよくなり、避雷針のあるブロック小屋を見て、小沢を二つ渡る。
 水量のある水場はこれで最後なので、ここで大休止にした。

 途中で摘んできたキシメジとヌメリスギタケ、ナラタケのだしを入れた釜揚げうどんだが、だしがよく出ておいしかった。

 1874メートルピークの北に回り込むと、めざす錫ヶ岳から前白根にかけての稜線が望まれる。
 錫ヶ岳の中腹には、落差20メートルほどの幅広の大滝があり、信じられないほどの水量で流れ落ちていた。

 地形図通りの地点で、林道は終わり。
 終点からは、かなりしっかりした踏みあとが尾根上につけられていた。

 ここからやっと自然の森。
 はじめはコメツガが多いが、やがてクロベにシャクナゲが混じるようになる。
 枯れ木にナラタケがたくさん出ていたので、それを摘みながら登高を続けた。

 国境稜線に出てみると、過剰なほど目印が多く、踏みあとも鮮明だった。
 葉先を摘むとオレンジのような芳香のするオオシラビソ林だが、相変わらずナラタケが多く、スギヒラタケも出始まったようだった。

 西側が開けた中間点あたりから見る萍川源流は、紅葉が進んでいて美しく、仰ぎ見る錫ヶ岳はとてもりっぱだった。

 小雨の降り出した錫ヶ岳への登りは急だったが、ササ原で振り返ると、皇海山が遠くに浮かんでいた。

錫ヶ岳から望む皇海山

 錫ヶ岳の山頂は残念ながら展望なし。
 天気も悪いので、今夜の泊まり場である、次の鞍部に急いだ。

 錫の水場は水量十分、テント2張は可能だと思われる。
 ナラタケ、スギヒラタケ、サンゴハリタケを入れた炊き込みご飯やみそ汁を食べて眠りについた。

 雨は翌朝になってもあがらず、二日目は雨中のスタートとなった。
 しばらくは、美しく苔の敷かれた針葉樹林帯。
 雨のおかげで苔の美しさが映えていた。

 右側の展望が開け、ガスが流れて錫ヶ岳から皇海山、さらに袈裟丸山までが遠望できる場所があった。
 先日歩いた三俣山あたりも見え、皇海山を中心とする国境山脈の、ダイナミックなうねりが印象的だった。

 晴れていれば展望のききそうなササ原をトラバースすると、ちょっとした水たまりなどもある、シャクナゲの群生したところ。
 このようなところには、必ずシカが遊んでいる。

 1時間ほどで白檜山(2394峰)。展望はないが広い山頂だ。
 ゆっくり下ると、山の雰囲気が一変し、ガンコウランの下生えに岩のごろごろした、高山的なところ。
 あたりは白根隠山(2410峰)の一角だ。

 のしかかるようにそびえる白根隠は、森林限界を超えており、360度の大展望。
 相変わらず雨はやまないが、ときどきガスが切れると、日光連山や中禅寺湖、奥白根山が顔を出す。
 足元はるか下には、小広く小さな谷が見える。

 三つのピークを持つ白根隠の主峰を下りきったところから、谷へと下降(踏みあとなし)。
 この谷は火山灰および火山噴出物でできており、樹木は生えていない。
 あちこちに、ベンチのような石が転がっていて、まことに風情のよいところだ。
 名残のハクサンフウロがいくつか咲き残っていた。

 少し登ると避難小屋が見え、登山道に出た。
 ここでまだ9時。
 ガスが晴れていたので、奥白根へ向かう。
 奥白根を半分ほど登ったところから見ると、白根隠山は、とても格好がよかった。

 天気が悪いのでハイカーは少ないが、人気のある山だけあって、人影が多かった。
 私にとっては9年ぶりの奥白根山は、小雨まじりの冷たい風が吹いていた。
 ついたときには360度乳白色の山頂だったが、しばらく待つとガスが晴れ、日光連山や白根隠、尾瀬周辺や武尊山などがあらわれた。
 錫と白檜山が見えなかったのは、残念だった。

 非常に寒いので、早々に下山にかかる。
 下山ルートは自動車をデポした丸沼登山口。

 南西側の急傾斜のザレをトラバースし、切り立った岩場を右手に見ながら、ダケカンバの樹林帯にはいる。
 大雨のあとなので、斜面に引っかかった岩を見ながらのトラバースは、いい気分でなかった。

 ナナカマドの実が美しく色づいているが、紅葉はよくない。
 先の台風で落果したものだろう、登山道にも赤い実がたくさん落ちていた。

 枯れたキオンの群落を抜けると、シラビソの樹林帯。
 雨も小やみになったので、またきのこ狩りモード。
 スギヒラタケが多いが、知らないきのこもたくさん出ていた。
 七色平の破れ小屋の近くで、サクラシメジモドキがあったが、写真に撮らなかったのは悔やまれる。

 大日如来の先で、地形図のルートは通行止めという立て札。
 地主の日本製紙(株)が、なにかやっているようだ。
 代替ルートは血の池地獄から六地蔵を経てスキー場に出るというものだった。

 平坦で歩きやすく、気持ちのよいトレイルを行くと、しばらくで六地蔵。
 六体の地蔵様がそれぞれ、小さな個室のお堂に祭られてあった。

 その先で樹林帯が切れ、ガケとしか思えない急傾斜のスキーゲレンデ。
 左手の斜面は、雨で崩壊していた。
 コガネタケ、ナラタケ、ホコリタケなどが斜面に出ていたが、ゲレンデは汚染されていると思われるので、見るだけ。

 落石と滑落に注意しながら、えんえんゲレンデ下りを続け、「奥日光自然探勝路」という意味不明の看板の立つ自動車デポ地点にたどり着いた。