松木沢水源の山旅
−国境平・三俣山・黒檜岳−

【年月日】

1998年8月8〜9日
【同行者】 Nさんと極楽蜻蛉
【タイム】

8/8 大ナギ沢出合(8:40)−釜の沢出合(12:10)−
  モミジ尾根取付(13:45)−国境平(2:45)−カモシカ平(3:20)
8/9 カモシカ平(5:30)−三俣山(7:20)−シゲト山最高点(10:15)
−黒檜岳最高点(10:55)−千手ヶ浜船着き場(13:30)

【地形図】 皇海山、中禅寺湖

三俣山近くから望む皇海山

 天気がやや心配だったが、陽が昇るとともに、晴れ間が広がった。
 大ナギ沢出合の駐車場は、釣り人の車でにぎわっていた。

 堰堤工事用の林道は、落石でぼろぼろ。
 道わきの崖には、急斜面にかろうじて引っかかっているような石が無数に見える。
 必然的に、上を見ながら歩くので、首がいたい。

 このあたりは鉱滓を捨てたわけではないので、水質は悪くないはずだが、水の色はやはりおかしい。
 ここは樹木が枯死したために、土壌が完全に崩落し、岩場が露出した死の谷。
 でも、有毒ガスの消えた谷間には、無数のアマツバメ(Nさんのご教示)が舞っており、いのちのしたたかさを感じさせた。

 もっとも新しい堰堤は、三沢の出合うすぐ手前に作られていた。
 周囲はしだいに緑が濃くなる。
 この川に堰堤が必要だったのは理解できるが、これ以上はいらない。
 もともと崩落のなかった仁田元沢奥の堰堤工事といい、せっかく回復しようとしている自然を、不要な工事で破壊するのは、見るに忍びない。

 林道が消えると、河原歩き。
 最後の堰堤を左岸から越えると、水量が増えてくるので、飛び石の渡渉がきつくなる。
 じゃぶじゃぶと濡れて歩きたい衝動にかられるが、それができないのも苦痛だ。

 渓相のよいところは、テンカラ竿を振りながら行った。
 魚影はすこぶる薄いが、Nさんにも私にも、ニッコウイワナが一つずつかかってくれた。
 煙害に負けずに、よく生きていたなあ。
 ごくろうさま、とリリース。

 釜の沢の出合で大休止。
 水が豊富なので、ざるそばにした。
 きのこがないのは、ちょっと残念だった。

 ニゴリ沢は、文字通りぶきみに白濁した沢だったので、水は本流(皇海沢)で補給。
 こちらに入ると、やや傾斜が急になる。

 モミジ尾根取付点からは登山道になるが、かなりの急登だ。
 ミズナラの大木が点在するものの、伐採したわけでもないのに若木がほとんど。
 足元にはオサバグサが多いが、花はとっくに終わったと見えた。

 傾斜がゆるむと、踏みあとは不鮮明となるが、目の前に皇海山が立ちはだかって、大迫力。
 北に目を転じると、釜五峰の岩壁が屹立していた。
 国境平までは、か細い踏みあとをひと頑張りだった。

 国境平は、シカの足跡が縦横に走る鞍部。
 涼しげなササ原の中に、天然カラマツの緑とダケカンバの木肌が、美しい。
 日向山への登りはきつかったが、今宵の泊まり場、カモシカ平まではすぐだった。

 時間は十分。
 食事と小宴会のさなかにも、シカが闖入者たちを観察に来た。
 まだ明るかったが、一日の疲れもあって、早々にテントにもぐり込んだ。

 ホトトギスの声に目覚めた翌朝、明け方はややガスっぽかったが、幸運にも、雲はしだいに晴れていった。

 いきなり釜五峰への登り。
 どれが五峰でどれが四峰だか、いちいち確認しなかったが、岩峰と岩峰の鞍部から下をのぞくと、すごい岩場で、思わずのけぞってしまう。
 一峰は直立した岩場なので、やっかいそうに見えたが、西側を巻いていけた。

 釜五峰を過ぎると、カラマツがなくなり、コメツガとダケカンバが多くなる。
 カマ北のコルあたりはとくにダケカンバが多い。
 ないはずはないと思って、足元を見ていると、やはりヤマイグチが見つかった。

 三俣山へはやや急な登り。
 ルリビタキやメボソムシクイが頭上で鳴いていた。
 ドクベニタケの仲間やカワリハツ、モリノカレバタケの仲間などを見ながら登っていくと、展望のない三俣山。

 ここからは、方向をま東にとる。
 県境尾根は、踏みあと不鮮明ながら、目印はうるさいほどついていたが、南岸尾根に入ると、目印もめっきり少なくなった。
 まったく踏みあとのないところを東にしばらく行くと、かすかな踏みあとが断続するようになる。

 大きな岩を北から巻き、ひと登りで三俣山東のピーク。
 コメツガの若木越しに日光白根が見えるところだ。
 そこを下ると、南がササ原の鞍部で、足尾山塊の核心部が観察できる。

 ガスはすっかり晴れ、険悪な三沢源流の向こうに、堂々たる皇海山を中心とし、鋸山、袈裟丸連峰、オロ山、沢入山が一目瞭然だ。
 この山行中随一の展望だった。

 1928ピークを東に向かうと、南がガレていて、シゲト山が観察できるところがある。
 シゲト山は、不思議な山で、ピークらしいピークがない。
 地形も複雑だし、地形図でも、どこがシゲト山だかわかりにくいような記載になっている。
 尾根をトレースするだけでもむずかしそうなので、ここは相談しながら慎重に行った。

 踏みあとは断続しているが、このあたりは断の方が多い。
 シゲト山最高点から黒檜岳への尾根に乗れれば、この山行もピークを越える。
 黒檜岳へは長いヤブの登りだが、迷うところはなかった。

 千手ヶ浜までは、よく整備された道なので、ずいぶん長いが、スピードが上がる。
 食べられるきのこをとったり、写真撮影させていただいたりしながらだったが、観光客のいる船着き場までは、さほどかからなかった。

 船着き場に着いたのが1時半。
 ここで、ビールを飲んで昼寝。
 Nさんの車をデポした菖蒲ヶ浜までは、3時発の遊覧船に揺られて行った。