菅沼の登り口は湿原上の平坦地。
道の脇にテントには、シラネアオイ監視所と書いてあった。
ゆるい登りから稲妻状に山腹を巻いていき、コメツガの樹林の下に、ハリブキの芽やカニコウモリの若芽が目立つようになると、白根山を仰ぐ弥陀ヶ池のふちに飛び出した。
弥陀ガ池の畔、座禅山の斜面には、シラネアオイが咲き誇り、イチリンソウの群落も可憐だ。
ショウジョウバカマが点々と咲く山頂への取りつき付近は、はじめはゆるく、高度を増すにつれて急になってきた。
ペンキの指導標に導かれながら岩の間を縫っていくと、大きな岩が散乱する、感じのよい山頂。
時刻はまだ8時過ぎ。空は真っ青だが、西から雲が押し寄せており、西南から北西にかけては雲海。
やはり燧ヶ岳が最も顕著だ。
宇都宮の人が、今年から燧ヶ岳の山頂が移動して5メートル高くなったと教えてくれた。
その左は平ヶ岳。
雲の間から残雪の至仏山がのぞいている。
東側も雲が流れているが、男体山、大真名子、小真名子、女峰山の四つの大きな山体が見え隠れする。
南には錫ヶ岳が目の前である。
数人のパーティが登ってきてにぎやかになったので、下る。
ササ原の急斜面を下りる辺りになるとコバイケイソウの芽生えが目立って来、白いダケカンバとヤマザクラのピンクの花が美しい鞍部。
五色沼の避難小屋は、しっかりした作りだが、中はあまりきれいではなかった。
小屋の前で座っていたら、同じ格好をした中年の団体と、教員に連れられた高校生のグループが前白根方面から下ってきた。
中年団体の方は、添乗員のような男がハンドマイクで「頂上まであと一時間です」などと、どうでもいいことをわめいていた。
高校生は、「早く都会に帰りてえなあ」などといっており、教員が「ここで休みにするから、パンを三つだして食べろ」などと言っていた。
前白根へは、かなり急な樹林帯。
エンレイソウやシロバナエンレイソウが目を慰める。
前白根の肩からは、白根山が目の前に膨大な山体を見せており、圧倒的だ。
前白根直下で、五色沼の方から大勢の中学生が登ってきた。
とたんに筆舌に尽くしがたいたいへんな騒ぎ。
前白根は標高が低いせいか、花も豊富で、ミヤマキンバイ、フデリンドウ、シロバナノヘビイチゴ、イワカガミ、イワショウブなどが見られた。
急斜面を下っていくと、またもや中学生の大群。
前白根の上で「向うに届くようにみんなで声をそろえて『やっほう』と叫べ」などというおろかなことをやっていたが、今度の集団がその相手なのだろう。
五色山への登りは、イワカガミの濃いピンクの花がすこぶる多く、急登も気にならない楽しさだ。
金精峠への道は、今までとはうって変わって静かな山歩き。
道はササの中をずっと下っていく。
コブを二ツ乗っ越すと、金精峠と湯元の分岐。この辺は歩かれていないため、道に残雪が多く、部分的にスノーブリッジになっており、時おり踏みぬいて苦労した。
このあたりは、ミツバオウレンとコミヤマカタバミの白い花がずっと続いていた。
登りが苦しくなってきた辺りで、ツバメオモトの可憐な花が待つ、金精山の頂上。
ガレ場の急降下で、金精峠の神社。
峠からの下りは、ふるい道と見えて、石がごろごろしているが広くて歩きやすかった。