大展望だけどうるさい
−矢ヶ崎山−

【年月日】

1995年12月29日
【同行者】 単独
【タイム】

碓氷峠(12:01)−矢ヶ崎山(12:45)−碓氷峠(1:42)

【地形図】 軽井沢、南軽井沢

矢ヶ崎山から谷急山(左)、高岩(右)

 横川から国道18号線旧道に入り、ヘアピンの続く圧雪路を走って碓氷峠へ。

 途中ニホンザルが群れているところで自動車を止めてサルにエサをくれている人を見た。
 欲しがれば与えたくてたまらなくなるというのは、飽食時代の一種の病理現象だ。
 最近読んだバルザックの『海辺の悲劇』の主人公ピエル=カンブルメルを思い出してしまう。

 碓氷峠に着いたのは12時前。
 薄く雪が積もっていたので、ストックをつきながら歩きはじめた。

 尾根の上は感じのよい雑木林だった。小さな送電鉄塔が尾根上に何本か建っていて、山道は鉄塔の巡視路らしい。
 何種類かの動物の足跡が進行方向ずっとついているので、この道がけもの道をも兼ねていることがわかる。

 雲が多いもののまずまずよい天気。

 鉄塔の周囲には、送電線のじゃまになって伐採されたコナラが無造作に積み重ねてあった。
 シイタケの種コマを打つとすればざっと五百コマ分くらいか。
 これだけのコナラがいたずらに朽ちてしまうと思うともったいない気がしてならない。

 軽井沢方面から登ってくる道と尾根道とが交差すると少し傾斜が出てき、軽井沢プリンススキー場のゲレンデの一郭に出る。
 シラビソの植えられた左の尾根をさらに登っていくと、今度はリフトの降車場に出てしまった。

 そこは矢ヶ崎山の山頂直下なのだが、登山道のありそうなところはスキー場造成のための切り土がされていて、登れない。
 リフト監視員がこっちをにらんでいるが、そのままゲレンデの端を登り、いちばん上のリフト降り場横の、自動販売機の設置されているところから踏みあとに戻る。

 そこから頂上まではすぐだった。
 目の下では「ピンポーン、終点です。スキーの先を上げてください」というテープが鳴りっぱなしで、時おりトラブルが起きるのか、けたたましいブザーが鳴ったりしていた。
 この山は雪が降る前に登るべきだった。

 ただ、南側をのぞけば展望はなかなかよく、浅間山の山頂部が雲に隠れていたのは残念だったが、正面に見える留夫山は妙義方面から見るよりずっとなだらかな姿を見せていた。

 榛名山は全山見えているが、ここ数日にくらべて気温が上がっているためか、平野部全体にもやがかかっており、明瞭ではない。

 東側の裏妙義方面は、これまたおいしい眺めだ。
 すぐ前には五輪岩。
 目の下には稲村山がとがっているが、いかんせん背が足りないのはちょっと悲しい。

 その向こう裏妙義はすべて見えている。
 南から日があたっているので、谷急山にくいこむ沢の陰影がくっきりとしていた。
 恩賀の高岩もいい感じだが、この時間逆光で迫力に欠けた  そのはるかかなたには、両神山が望めた。

 展望を楽しみつつ大休止している間にも、「ピンポーン、終点です」がずっと聞こえており、しみじみと落ちつくことができないので、早々に下山にかかった。
 下りは峠まで20分少々で、腹ごなしにもならなかった。