3日目
翌朝は、予定通りに出発。
平坦な尾根をしばらく行き、しばし急降下した広河原峠で小休止。
白鳳峠へは赤薙沢ノ頭を越える。
基本的には樹林帯なのだが、ピーク付近では森林限界を越えて展望が広がる。
赤薙沢ノ頭から振り返ると、アサヨ峰がよく見えた。
このあと雲が広がったので、早川尾根がよく見えたのはここだけだった。
登山道を塞いでいたに頭を立木にぶつけたのは、このあたりだった。
頭はひどく痛かったし、いくらか出血したが、どうしようもないので、そのまま歩き続けた。
白鳳峠の小休止のときには、出血は止まっていた。
この木に頭をぶつけたのは5人中3人だったらしい。
まさに魔の立木だと思う。
白鳳峠から高嶺への登りはかなり強烈だ。
最初の急登は標高差200メートル。
ガス越しに見える高嶺は見上げる高さだ。
ゴロ石の平坦地を過ぎると、最後の急登約100メートル。
高嶺は、これまた大展望の極上のピークだった。
南アルプス北部の主たるピークはたいてい、登山者でごった返しているのだが、ここは他には誰もおらず静かで、登りの労苦の報われる山頂だった。
高嶺からアカヌケ沢ノ頭までは地形図で見るほど容易でなく、刈り払いのされていないハイマツの道を大きく下る。
鞍部からいきなり地質が花崗岩に変わると、植生も変わって、トウヤクリンドウ・ダイモンジソウ・ミヤマシャジン・イワインチン・ミヤマコゴメグサなどの草花が多くなる。
登りはそこそこきついが、草花を見ながら登るのは気分がよい。
アカヌケ沢ノ頭が近くなると、タカネビランジがすこぶる多い。
クモマベニヒカゲの舞う尾根を登りつめると、オベリスクを正面に望むアカヌケ沢ノ頭に着いた。
オベリスク前には去年も行ったのだが、鳳凰三山のシンボルでもあり、ザックをデポして記念写真を撮りに行った。
オベリスク周辺からハイカーの数が激増した。
タカネビランジを見ながら観音岳への鞍部に下る。
観音岳の登りは二段になっている。
一段目を登りきってやや下ったところが、鳳凰小屋直行ルートの分岐で、ここからまだひと登り必要だ。
ガスが上がってきて、いい感じはしないが、ロングコースの疲れも溜まってきたので、ここで小休止を入れてから、観音岳への登りにかかる。
観音岳は今回山行の最高点だが、天候の悪化が懸念されたのであまり休まず、先を急いだ。
薬師岳への尾根は、右に北岳・左に富士山と、晴れていれば最高に景色のいいところなのだが、今回は残念だった。
遠雷が聞こえ始めたので、薬師岳では止まらず、薬師岳小屋まで行って休む。
この先、砂払を越えれば樹林帯で、雷の危険性はぐっと少なくなる。
最初はいくらか急だが、やがて緩やかな下りとなり、最後にまたガレ場のようなところを下ると、今回最後の泊まり場である、広い草原の南御室小屋に着いた。
この日もいい時間にテント場に着くことができた。
南御室小屋も、トイレと水場の近い快適なテント場だった。
小屋前に設置された防獣柵の内側では、ヤナギラン・ヤマトリカブト・オトギリソウ・シシウド・キバナノヤマオダマキなどが咲いていた。
遠雷が聞こえ、数滴の雨粒が降ってきたが、この日も本格的な雨にならないまま暮れた。
この夜はいささか冷えたが、眠れないほどではなく、真夜中にはまたきれいに晴れあがって、初日よりいくらか欠けた月が明るかった。
4日目
最終日は、ザックもずいぶん軽くなり、概ね下りばかりなので、気分も軽い。
苺平へのトラバース道で日の出。
もう少しゆっくり出発すれば、南御室近くの展望地からスッキリしたご来光を拝むことができたかもしれない。
苺平からしばらく下ったところで小休止。
苔むした林床が美しい。
杖立峠へは長いが緩やかな下りが続くので、歩程が捗る。
ベンチのある展望地からは、白峰三山が望まれた。
夜叉神峠へはやや急な下りになるが、路面に石ころが少なく、歩きやすい。
軽く登りに転じれば、夜叉神峠小屋。
雲はまだ多くなく、ここから白峰三山をじっくり望むことができた。
テント場を覗いたが、あまり広くはなかった。
小屋前から最後の一本に出発。
バス停に着いたのはジャスト8時41分で、甲府への一番バスに間に合った。
下界は蒸し風呂のような状態で、涼しい山とは大違いだった。