1日目
前夜のうちに家を出て、芦安駐車場に向かった。
途中、大休憩も入れたが、三時前くらいには駐車場に入れた。
前日にたくさんの登山者が入っているので、駐車場はほぼ満杯だったが、どうにか空きスペースを見つけることができた。
4時過ぎくらいから、周囲がざわざわし始めた。
とまっているのは前日に入山した人々の自動車かと思っていたのだが、必ずしもそうでなく、この日に登る人もたくさんいたのだった。
バスは混みそうだったので、相乗りタクシーを選択して、広河原ヘ向かう。
夜叉神ゲートが5時半まで開かないらしく、ゲート前でしばし待って、久々の広河原に着いたのは、6時前だった。
天気はどんより曇っており、強い風が吹いてちょっと寒かった。
荷物が軽いので、快調に登高できる。
道が右岸に渡るあたりから、雪解けあとの花々が見えてきた。
夏とはずいぶん様相が異なっていて、面白い。
もっとも多かったのはサンリンソウで、ウドやフキノトウが出ているのも、珍しかった。
二俣の手前で雪渓に出たので、ストックを突いて進む。
それもつかの間で、再び夏道へ。
二俣に着いたところで、大休止。
タカネグンナイフウロは咲き始めていたが、ミヤマハナシノブはやっとほころび始めたところだった。
すれ違った人から、左俣コースの残雪も少ないと聞き、八本歯へ向かう。
真夏に比べて花は少ないが、ミヤマキンポウゲやハクサンイチゲなどがそこここに咲いていた。
最後の水場から小尾根にとりつき、丸太はしごの登りにかかると、けっこう疲れてきたが、頑張って八本歯に登りついた。
風は冷たく、何も見えないが、ハクサンイチゲやクロユリが咲いていて、ほっとする。
ここで小休止。
いくらか元気を取り戻して、分岐へ急登。
トラバース道に入ってほっとする。
いつもながら、ここの花はすごい。
ハクサンイチゲ・シナノキンバイ・ミヤマムラサキ・イワベンケイ・ミヤマオダマキ・オヤマノエンドウ・キタダケソウ・キンロバイなどが咲いていた。
キタダケソウは咲き残りで、ほとんど傷んでいた。
北岳山荘までは行かず、尾根分岐で尾根道に入り、北岳へ向かった。
風が強かったため、この登りはかなり苦しかった。
山頂の岩陰で少し休んで、肩ノ小屋方向へ下る。
小屋には13時前に着くことができた。
受付を済ませた時点で先客は一人だけだったが、おいおい、たくさんの登山者が訪れて、ほぼ満員状態になった。
小屋の外で昼食をすませ、持ってきたアルコール飲料を飲んで、夕食の5時までぐったりした。
夕食をたっぷりいただくとずいぶん、元気が戻ってきた。
小屋泊は、とてもありがたい。
20時前にトイレに出たら、西側の空が晴れていた。
これで翌朝が楽しみになった。
20時半ごろまで酔っぱらいの騒ぐ声が聞こえたが、明かりが消えると静かになった。
夜はよく眠れた。
二日目
薄明るくなってくると、周囲がざわつきだし、目が覚めた。
4時過ぎにカメラを持って外へ出てみると、快晴無風の黎明が始まろうとしていた。
今にも陽が昇りそうなので、しばらく待った。
ご来光まで意外と時間がかかり、4時半過ぎに日が昇った。
南アルプス以外はほぼ見える状態で、多くの登山者が狂喜していた。
中央アルプスや北アルプスだけでなく、谷川連峰や日光連山、頸城の山々などもよく見えていた。
北岳からこれだけの展望が得られたのは、初めてだった。
食事をいただいたあと、さっそく出かけた。
昨日ひどく疲れたのだが、小屋泊のおかげで、すっかり元気を取り戻すことができた。
稜線にはハクサンイチゲがすこぶる多く、みごとなお花畑になっていた。
ハクサンイチゲは初秋まで咲いているが、これだけの花数は、真夏の山では見られない。
オヤマノエンドウ・ミヤマシオガマ・チシマアマナ・チョウノスケソウも多く、キバナシャクナゲはほほ終わり、代わってタカネツメクサ、イワツメクサ、シコタンソウなどが咲き始めていた。
草すべり下り口までは天上遊歩道をあっという間だった。
天気はよく、時間も早かったので、なかなか行こうという気にならなかった小太郎山に向かうことにした。
北西方向へ下って行くと、ハクサンイチゲなどが見えなくなり、足元にはコイワカガミ・クモイナズナ・ミヤマキンバイ・イワウメなどが多くなる。
盛りは過ぎていたとはいえ、大株がいっせいに開花している様子は、みごとだった。
少しずつ高度を下げ、小太郎山手前岩峰の下でいったん、ダケカンバの樹林帯に沈む。
見た目ほどでもない斜面を登ると小太郎山はすぐ目の前だった。
振り返れば、歩いてきた尾根が望まれて、絶景だった。
ここで小休止して、もと来た道を戻る。
尾根周辺では、ホシガラスが飛び交っていて、中にはずいぶん近くに来るものもいた。
小太郎尾根下降点には登山者がたくさん憩っていたので、ここでは休まず下った。
草すべり上部の草原帯ではシナノキンバイの大群落が開花していた。
ここは花の美しいところだが、これほどの花数になるとは驚いた。
ずいぶん前に行った荒川小屋周辺のお花畑に匹敵すると思われた。
白根御池に下るつもりだったのだが、時間もあることなので、この日は右俣コースに入って遠回りをした。
道のようすは草すべりコースと似たような感じだっただろうが、樹林が切れたところから頭上にそびえるバットレスが圧倒的だった。
樹林帯に入ると、キバナノコマノツメやサンリンソウが多くなる。
ハクサンチドリやウサギギク、ツマトリソウ、ミヤマキンポウゲなども点々と咲いていた。
新緑と白い雲が青空に映えて、眩しかった。
広い雪田に出ると、ショウジョウバカマが咲いており、樹下にはヒメイチゲも咲いていた。
右俣が近くなると、タカネグンナイフウロが多くなる。
ミヤマハナシノブはやっと咲き始めたところだった。
右俣雪渓の夏道もほとんど通行可能で、岩場でミヤママンネングサが咲いていた。
御池小屋に着いた時には、さすがに少々疲れてしまっていた。
しばしここで休んで、尾根コースを下る。
ゴゼンタチバナやマイヅルソウ以外には花もほとんどなくなり、坦々とした樹林帯の道になる。
ちょっとしたガレバでなぜか、テガタチドリが咲いていた。
足元にいくつか、きのこも出てはいるが、ヒナノヒガサやウスタケの子どもなど、小さなものばかりだった。
下降点以下は、ひどい下りだ。
それでもときおり、登ってくる人がいた。
膝が痛くならないのが不思議なほど強烈な下りだった。
広河原のバス停に着いたらちょうど、出発するという乗合タクシーがあったので、じつに都合よく秩父に戻ることができ、明るい間に着いたので、農作業もいささかこなすことができた。
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