1日目
このコースは、6年前と3年前にも歩いたことがある。
登山が梅雨入り前後になるので、好天はあまり期待できないのだが、前回あたりは驚くほどの大展望に恵まれた。
今回は、入山日が関東甲信の入梅と重なり、予想天気図を見れば、好天はとても期待できない状態だった。
2006年にバスでアプローチしたときには、御座石鉱泉の入口までしか行ってくれなかったのだが、今回は、御座石鉱泉前の駐車場まで頑張ってもらえたので、歩く距離をずいぶん短縮することができた。
御座石まで来ると、いつもならエゾハルゼミの声が響きわたっているのだが、今回は野鳥の声も少なく、静まり返っていた。
雨は殆ど降っていなかったが、降雨は必至と思ったので、合羽ズボンにスパッツだけつけて、登り始めた。
石空川分岐(通行止めの柵がしてあった)までは比較的緩やかで、ツガの大木が目立つ自然林である。
標高が低いので、緑は濃く、いつもは蒸し暑く感じるのだが、上半身はTシャツ姿だったので、まずまず快適に登っていけた。
この日の急登の楽しみは、カモメランである。
ジグザグに高度を稼いでいくのだが、登山道の両側に小さなピンク花がいくつか咲いていた。
カモメラン以外には、エンレイソウ・ツバメオモト・ミヤマカタバミなどが咲いていたが、かつてたくさん咲いていたイワカガミはずいぶん少なくなったような気がした。
樹木の花では、ハクウンボクは全く見えず、オオカメノキは散ったばかりで、赤いツクバネウツギが盛りを過ぎたところだった。
石空川分岐付近でコルリが、急登にかかるとルリビタキ・メボソムシクイ・エゾムシクイがさえずっていた。
サルオガセが木に下がるようになると、ようやくの思いで、燕頭山に着き、大休止。
天気は相変わらず、小雨が降ったりやんだりだったが、ここは樹林がまばらなので、明るい感じがする。
ここからは傾斜がゆるくなり、登高自体は多少らくになる。
ここはおおむねシラビソの苔むした樹林帯で、イチヨウランやイワカガミがいくらか咲いており、バイカオウレンはたくさん咲いていた。
野鳥の声も、ミソサザイやキクイタダキが交じるようになる。
小屋の手前あたりから残雪があらわれ、部分的に雪を踏みながら登るようになる。
薪の燃える匂いが漂ってくるとまもなく、鳳凰小屋に着いた。
テント場に着き、設営を終えたころに、雨がやや強くなった。
多少の降雨は覚悟していたが、行動中にひどく降られなかったのは、たいへんラッキーだった。
その後も幕営の登山者が続々と到着し、鳳凰小屋のテント場はほぼいっぱいになった。
宵の口にはかなり雨脚が強くなったが、みんな既にテントに入った後だったので、問題なかった。
他のテントからは話し声がいくらか聞こえていたが、さほど気になるほどでもなく、7時ころには眠ってしまった。
持ってきた衣類をすべて着込んで寝たので、寒さは全く感じなかった。
キュウリを刻むようなヨタカの声を一晩中聞いたのも、久しぶりだった。
夜中にトイレに出ると、満天の星空に月が出ており、ヘッドランプがいらないほどだったので、翌日が楽しみだった。
二日目
鳳凰小屋からオベリスク前までは、約300メートルの急登だが、荷物も多少軽くなっていたので、さほどきつくなく登れた。
太陽が出たのはシラビソの樹林帯の中でだったが、周囲がオレンジ色に染まってくると、ダケカンバ若木の多い観音岳の山腹が燃えるような色になっていた。
オベリスク前に立つと、見渡す限りの雲海の上,観音岳の肩に富士山が顔を出していた。
雲海の下にある低山は全く見えなかった。
反対側には甲斐駒ヶ岳が雲海に洗われていた。仙丈ヶ岳はここからはよく見えなかった。
この日はオベリスクの前でゆっくり休んだのだが、あとで考えれば、さらに展望のよいアカヌケ沢の頭で休めばよかった。
アカヌケ沢の頭に立つと、たっぷりの残雪をまとった白峰三山が目に飛び込む。
ここから薬師岳までは、北岳を眺めながらの登降となる。
観音岳に着く手前から、雲が上がってきて、白峰三山がかろうじて見えるほどとなった。
西からも雲が稜線近くまで来ていたから、曇ってしまうのは時間の問題だったが、それでも一瞬とはいえ、快晴の青空が広がり、この上ない展望を得ることができたのだから、言うことなしだ。
観音岳で少し休んだが、既に富士山はほとんど見えなくなっていた。
ガスが上がってきた
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薬師岳から振り返る観音岳
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薬師岳へは下り気味に行く。
薬師岳に着いたときには、まだ北岳のてっぺんが見えていたのに、やや長い小休止をとっているとガスに覆われ、小雨が降り始めた。
今日はもう降るまいと思って合羽ズボンを脱いだ直後だった。
山の天気を読むのは、じつにむずかしい。
バスの運転手さんが登山口まで来てくれると言っていたので、あまり期待はしないと思っても、期待してしまった。
さすがに最後のジグザグ下りは、けっこうきつかった。