二日目
バイカオウレン
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地蔵岳直下のダケカンバ林
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2時半にテントの外をのぞいてみると、満天の星空だった。
雨のち曇りの予報だったことを考えれば、なんたる幸運。
朝食を食べながらも、稜線に出てからの大展望が楽しみだった。
予定通り、4時に小屋を出発。
薄明るくなったばかりだが、山じゅうのルリビタキが鳴いているのではないかと思われるほど、にぎやかだった。
すぐに残雪があらわれる。
腐った雪だが、歩行には問題なし。
ただ、雪のため、ルートが不鮮明になってしまっていた。
道形のわからないところは、雪上の足跡をたどったが、結局道をロストしてしまったので、樹林の中を適当に登った。
前回のトラックログと照合してみると、登山道よりずいぶん右寄りに登ってしまったようだ。
地蔵岳から望む駒ヶ岳
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地蔵岳から望む仙丈ヶ岳
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左にトラバースして正規の登山道に出ると、左手のダケカンバ林が朝の斜光線を浴びて、オレンジ色に輝いているところだった。
前方にオベリスクが見え、後方に観音岳が見えるのだが、賽の河原までは思ったより時間がかかる。
風化したかこう岩の白ザレは崩れやすく、苦労している人もいた。
登っていくと、観音岳の左肩に富士山がのぞく。
オベリスク基部まで登ると、富士山はようやく左半身をあらわした。
ここでちょっと長めの小休止。
駒ヶ岳の雪はほとんど解けてしまったようだが、仙丈ヶ岳はまだ、大量の残雪におおわれていた。
駒ヶ岳の右肩には槍・穂高連峰がのぞき、左には乗鞍岳がよく見えた。
オベリスクと八ヶ岳
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観音岳から地蔵岳を振り返る(大きな写真)
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雪の斜面をキックステップで登って、主稜線。
快晴なのだから当然だが、大量の残雪に覆われた白峰三山の景観が素晴らしい。
観音岳へは、少し下って登り返す。
鳳凰小屋への近道を分け登りにかかるところで、雪の上をトラバースする踏みあとを見つけて軽アイゼンをつけたが、ロープの下がった急斜面を直登するのが正式なルートだとわかったので、再びアイゼンをはずした。
ここでちょっと、タイムロスをしてしまった。
観音岳への登りは、残雪を縫いながら高度を上げていく。
3年前には、このあたりでキバナシャクナゲが咲いていたのだが、今回は一つも見ることができなかった。
背後を振り返ると、地蔵岳の彼方に八ヶ岳や奥秩父がそびえているのが、間近く見えていた。
今回の最高峰である観音岳は、周囲に遮るものがなにもなく、周囲の景観はいくら見ても飽きることがなかった。
白峰三山の左の高い山が気になったが、たぶん、カールを抱いている左のピークが悪沢岳、右のピークが荒川中岳だと思う。
その左にも高い山が見えるが、そちらは聖岳ではないかという気がする。
これから向かう薬師岳は目の前で、その向こうには富士山がそびえている。
薬師岳へは下り気味にトラバースしていくので、あっという間だ。
時間もまだ早いので、名残惜しいが、帰りの電車の時間も気にかかる。
北岳をバックに記念写真を撮って、中道コースを下る。
薬師岳直下は残雪がたっぷりで、踏み抜くとやっかいな箇所もあったが、案じたほどの積雪ではなく、目印もたくさんあったので、ルートは明瞭だった。
中道コースは、1500メートル余の標高差を一気に下る。
地形図を見ても、恐るべき下りであるが、軽装・重装の登山者が記憶しているだけで4人、登ってきた。
大した根性だと思う。
御座石コースがコメツガ中心だったのに対し、中道コースは最初がダケカンバ林、その下すぐにシラビソ林となる。
鳴く鳥はメボソムシクイやルリビタキが中心で、草花はほとんど見ることができない。
標高2000メートルほどの、傾斜がやや緩くなったところで小休止。
真っ青だった空に、いつしか雲が出てきて、白い空に変わっていた。
その後また急な下りだが、標高1800メートルあたりから再び緩やかになる。
このあたりからは、周囲はカラマツの植林地となる。
マイヅルソウ・ズダヤクシュなど、地味な花があらわれ、コルリやツツドリなど、中腹の鳥の声が聞こえ出す。
足元には、モリノカレバタケの仲間の菌輪。
この前に来たときには、パーティのかなりがへたばったのだが、今回は全員とくに問題なく、林道を渡って、最後の下り。
エゾハルゼミのビィビィという鳴き声がにぎやかだ。
モミ林をジグザグに下って、フタリシズカやシロバナノヘビイチゴの咲く、広い林道に出る。
青木鉱泉に着くと、ここではハクウンボクがまだ、さかんに咲いている最中だった。