信仰の山・新緑の山
- 風越山 -

【年月日】

2009年5月25日
【同行者】 Uさん
【タイム】

猿庫の泉(7:47)−乙女の滝(8:34-8:45)−今庫の泉(9:27)
展望台(10:00-10:15)−駐馬巌碑(10:30)−白山神社(10:46)
−風越山(11:04-11:14)−高取屋山(12:07)−猿庫の泉(13:15)

【地形図】 飯田 

 城山三郎の小説『官僚たちの夏』の主人公は風越信吾という名前の通産官僚で、政治家・財界人も、またもちろん一般庶民をも歯牙にもかけず、国家的な経済戦略の立案・立法に邁進する「ミスター通産省」であるが、彼の名前は、ここ飯田の風越山からとられている。
 城山氏は作品の中で、、風越山を「けわしい山と山とが重なり合い、肩を寄せ合って、足もとの伊那谷をのぞきこんでいる感じ」と評している。

 また清水栄一『わが遍歴の信州百名山』は、明治17年の飯田事件において、飯田の民権結社である愛国正理社メンバーが「名古屋ニ於テ其ノ目的ヲ達シタル上ハ信州ニ入リ、下伊那ノ天嶮風越山ヲ扼守シテ義ヲ天下ニ唱ヘルコト」を意図していた事実を紹介している。

 山容も、歴史も、名山の名に値する山だが、歩いてみるとそれが改めて、実感された。

 猿庫の泉の駐車場からしばらく林道を行く。
 林道終点まで走行できないことはないが、急坂だし、周回コースなので、無理する必要はない。

乙女の滝(大きな写真)
展望台から飯田市街(大きな写真)

 円悟沢は、中ほどに堰堤があって荒れているものの、おおむね整った、かこう岩のナメ沢だ。
 水量が少ないのはともかく、淵がないから、サカナはいそうにない。

 渓流のそばを歩くのも久しぶりだ。
 しばし登ると、乙女の滝の分岐。
 滝まで10分とあるので、寄っていく。

 滝の高さは12メートルほど。
 雨後とはいえ、水量はやはり少ない。
 いい滝だが、乙女の黒髪のように美しく、清らかに落ちている印象の滝名からすれば、どうだろうか。

 分岐からは、植林された急斜面をジグザグに登っていく。
 このコースでは、ここから展望台までが、頑張りどころ。

 虚空蔵山・延命水方面に通じるトラバース道を渡って少し行くと、あずまやがあって、今庫の泉。
 「玉水」と彫られた石碑が建てられている。

 ここで一休みしてもいいのだが、同行者がヤマビルに食われたので、腰を下ろすのがためらわれる。
 虚空蔵山への分岐で再び小尾根を急登する道に入る。

 このあたりまで来ると、沢の音が遠くなって、ウグイスやヤマガラ・シジュウカラ・ツツドリなどの声が響く。
 若いコシアブラが生えているが、一本の木に一芽しか残さず、すべて摘まれていた。

 きついところは、主稜線に出たところの展望台まで。
 ここまで登れば、あとはさほど大変でない。
 展望台には標高1410メートルと記した表示板が設置されているが、ここの標高は1360メートルほどだ。

 展望台では、ヤマツツジが満開で、素晴らしい。
 眼下に飯田の町並みが広がる。
 南アルプスも見えるはずだが、残念ながら雲の中だった。

 ここからは石造物が賑やかな尾根を行く。
 鳥居をくぐると、岩場にお題目が刻まれた駐馬巌碑。
 岩にはさらに文字が刻んであるが、何でここにお題目なのか、さっぱりわからない。

役の行者
山門(大きな写真)

 岩を巻き登ると、自然石に刻まれた石段。
 ここからしばらくは、尾根上の岩を利用して人工的な道が作られていた。

 続いて、右手の岩場に従者を二体従えた神像。
 説明はないが、役の行者か。
 こうなると、修験の匂いがしてくる。

 さらに階段を登ると、赤い山門。
 わきに植えられたシャクナゲが満開だ。
 仁王像がいるべき門の内部は留守で、木と神で作ったご神体らしきものが立てかけられていた。

白山神社本殿とミズナラ
山頂手前の地蔵像

 ここはほんらい修験寺院で、維新後、神社へと復飾したものではないかという印象を強くする。
 さらに登ると、奥宮。
 重要文化財だという本殿は、新しく塗り替えられていて、きれいになっていた。
 本殿わきには、ミズナラの大木。

 山頂へはいったん下って登り返す。
 サワラの大木も見える急なところを登ると頂稜。
 このあたりはブナやミズナラ・モミなどの自然林で、緑が清々しい。
 地蔵の石仏を見てしばらくで、山頂広場に着いた。
 展望は皆無。

 山頂からは、高鳥屋山に行くらしき南西への道(判読不能の道標あり)と、岩穴及び日夏耿之介歌碑に行く真南への道が下っている。
 今日は、高鳥屋山経由で下る予定なので、下山は、南西への道に入る。

山頂周辺の自然林
高鳥屋神社前の観音像

 表参道に比べて道はややヤブっぽいが、踏みあとは明瞭。
 テンポよく高度を下げていくと、左に水場を見て高鳥屋山。

 ここも展望はなくて、高鳥屋神社と観音像がある。
 ここまで下りてくると、アカマツの大木が多くなり、登山口までのアカマツ林は、なかなかみごとだった。

アカマツ大木林
三十三観音(大きな写真)

 神社下からの路傍には、三十三体の観音像が置かれている。
 形とサイズが似ているので、同時期に建てられたものと思われるが、風化が進んでいるため、奉納者や年月日はほとんど読みとれない。
 千手観音が多く、馬頭尊はあまり多くない。

 観音参りの終点が神社だというのも、不自然だ。

 ここまでの道はヤブっぽかったが、神社から先は参道になるため、よく整備された歩きやすい道となる。  立派なアカマツを鑑賞しながら下っていくと、樹間から飯田の町が見えてくる。

 下りきったところが、高鳥屋神社の里宮で、猿庫の泉のすぐ下だった。