鳥甲山は遠いね

 【年月日】  1996年8月17日
 【パーティ】 2人
 【タイム】  和山口(7:07)−白クラ(9:40)−鳥甲山(11:00)−赤クラ(11:42)−屋敷口(2:10)
 【地形図】 鳥甲山、切明

アカモノの実
 お盆の終わりで混雑が予想されたが、せっかくの休みなので信越の鳥甲山に出かけてみた。

 この山は秋山郷の小赤沢から苗場山に登ったとき、真後ろにそびえていた山だが、すさまじく切れ落ちた岩壁が印象的な、いい山だった。

 長いこと山行予定にありながら果たせなかった山にようやく登れた。

 埼玉のわが家を出たのは深夜。日帰りで行くのは無謀といえるくらいアプローチが遠い。関越の石打から峠越えで津南へ。さらに秋山郷めざして中津川沿いの道路を南へ走る。登山口まで四時間かかった。

 この山の登山口は二つある。そのうちの一つ、屋敷登山口に流星号(MTB)をおろして、もう一つの登山口である和山登山口まで自動車で行った。

 さすが土曜日とあって両登山口には何台かの自動車がとまっていた。

 登山口からいきなり急登がはじまる。はじめはスギ林だが、足元には本葉を出したばかりのブナの稚樹が密生している。ここの植林は変わっていて、ブナやミズナラの大木を伐らずに残した上でスギを植えている。これなら生態系にショックを与えることも少ないし、豪雪からスギ苗を守ることもできる。ブナによって日射がさえぎられてスギの成長に影響があるかもしれないが、そのへんはどうなのだろう。

 一点の雲もない快晴。登山日和といえばそうだが、暑い。「鳥甲山自然環境保全地域」の看板のあるところでひといき入れた。目の前にクロベの壮年木がりっぱだ。

 ここからも展望はよいが日射もきつい急登が続く。イワカガミの葉が多いから花の時期に来ればはなやかな道だろう。ツクバネソウやツバメオモトは実になったあとだ。花はホツツジくらいしかないのかなと思っていたら、その先、ミヤマママコナがいたるところでピンクの花を開いていた。

 苗場山の巨体が見え始めたあたりからは、クロベ、マンサク、ヒメコマツ、コシアブラ、ミヤマナラ、リョウブなどの背丈も低くなり、シラタマノキやアカモノなどの美しい木の実もまじりはじめた。

 ぐらぐらしてちょっと不安なワイヤーバシゴで岩場を越えても、目の前のピークは相変わらず見上げるような高さだ。切れ落ちた稜線の下には切り残されたブナが点々としているのがわかる。鳥甲山のピークはぜんぜん見えないが、赤ーノ頭の赤茶色の岩壁が印象的だ。

 どこまで行っても傾斜がゆるまないので、高度だけはどんどん上がる。アカモノとミヤマママコナのほかにタテヤマウツボグサ、ツリガネニンジン、キンレイカ、コゴメグサなどもあらわれ、楽しくなる。低地では梅雨ごろに咲くリョウブは、ここでは初秋の今、花盛りだ。シャクナゲもあるが花はもうとっくに終わったらしい。タケシマランの赤い実もある。

 登り通しで二時間半。ようやく白ーノ頭に着く。植生が急に変わってオオシラビソやコメツガ、ダケカンバの疎林となる。針葉樹林になったとたんに定番のルリビタキが出迎えてくれた。

 ここではじめて鳥甲山を望むが、ずいぶん遠く見えるので落胆するところだ。ここからはしばらくの下り。苦労して稼いだ高度なのでちょっと惜しい。

 鎖場まじりのかなり激しいアップダウンが続く。ここの鎖場はぴかぴかの真新しいもので、設置してくれた栄村のみなさんの苦労が偲ばれるのだが、岩にボルトを打って固定したものではなく、土の地面に打ち込んだ杭に通しただけのものなので、肝心の杭がぐらぐらしていたり、なかには引っこ抜けているのもあった。

 もう下りはなかろうと思えるところは沢の源頭らしい草原で、お花畑だ。コゴメグサ、クサボタン、ウメバチソウ、マルバダケブキ、ツリガネニンジン、ヤマハハコ、オニシオガマ、オヤマボクチ、シモツケソウ、アキノキリンソウ、キンレイカ、タテヤマウツボグサなどが咲き乱れていた。この山にこういうところはないのではないかと思っていたので、うれしかった。

 さらに登ると山頂への分岐。そこからひと登りで、鳥甲山の山頂だった。針葉樹の疎林なので、大展望というわけにはいかないが、志賀高原方面はよく見える。

 焼額山は無惨なモヒカン刈りになっていた。ミズバショウ咲く稚児池はどうなっただろう。裏岩菅と岩菅山はさすがにすばらしい。寺小屋山から東館山にかけても造成のあとらしき模様が見える。笠ヶ岳はここから見ると背が足りない。横手山の山岳エスカレータの建物まで見えているからすごい。

 頂上にいた登山者と会話しながら食事。この人は和山登山口からのピストンだということだった。この日鳥甲山に登ったハイカーはすべてピストン。マイカー登山全盛の今はピストン登山が多くなりがちなのだろう。

 苗場山の上に黒い雲がわき始めたので、そろそろ下山にかかる。われわれは今度は屋敷方面に下る。こちらは登り下りがあまりなく、ひたすら下る一方で、危険なところも全くないかわりに、変化のない樹林帯が続くので、ちょっと飽きる。まさに下山向きの道だ。

 下降点からははじめのうち豪雪地帯らしく下向きに生えた灌木林、ずっと下ってブナの原生林だ。遠くからでもめだつ巨大な立ち枯れが一本あったので、トンビマイタケを期待したが出ていなかった。

 この山では盛りを過ぎたツエタケがたくさん出ていた。今年はツエタケの当たり年かもしれない。

 屋敷登山口は冷たい水がわくよい水場でもある。同行者をここに待たせて、流星号で和山登山口まで登り坂のサイクリング。出そうになっていたひざの痛みが不思議なことに遠のいていく。和山口まで20分少々だった。

 帰りがけに屋敷温泉かじか荘で汗を流した。300円。イオウのにおいのする熱いお湯が豊富で、とてもいい温泉だった。

 この夏としては最後かもしれないが、いい山行ができてよかった。