密ササと山ヒルと展望の山
−コシキの頭−

【年月日】

2002年5月19日
【同行者】 Nさんと2人
【タイム】

トンネル入口(8:00)−とりつき(9:00)−コシキの頭
(12:25?-1:15)−とりつき(3:00)−トンネル入口(4:00?)

【地形図】 四万 概念図(ポップアップで開きます)

国道から見上げるコシキの頭
馬づらの巨ミズナラ

 とりつきで一息入れて、「そろそろ難行苦行に出かけましょうか」というと、Nさんが、「そうですね。ここまで来ちゃったんだから、行かないわけにもいきませんね」とおっしゃった。

 中腹から稜線すべてを覆いつくしている、あのササヤブのことを考えると、どうも気持ちがひるんでしまう。
 ピークに登りたいという気持ちだけでは、とてもササに挑むモチベーションを維持できるものではない。

 天気がよく、体調もよくて、ちっとやそっとではめげない相棒に恵まれなければ、コシキの頭には、登れない。
 この山に挑戦するのは、これで3度目。

 日向見温泉の上のトンネル手前から歩き始めてすぐに、山ヒル注意の看板と、食塩水の入った霧吹きがおいてあった。
 ズボンの裾に食塩水をふりかけ、やや早足でとりつきまでの軌道あとを歩く。

 山に雪はほとんど見えないが、日向見川・摩耶の滝は、雪シロが入っているらしく、白く泡立ちながら轟音を響かせていた。

 とりつきからしばらくは急登だが、薄い踏みあともある。
 二次林から、ミズナラの巨木が点在する原生林になると、ササが次第に深くなった。

 印象的な大木が何本もあったが、最も大きいのは、馬の顔に似たコブのある巨ミズナラ。
 幹廻り5メートル以上はありそうだ。

 その先でやや傾斜がゆるむと、踏みあとは消滅し、お待ちかねの密ヤブに突入。
 地形図で見ると、急斜面と密ヤブの二重苦が、標高差にしてあと300メートル以上も続く。
 今日はそのつもりで登ってきたのだから、黙って登るしかない。

 古い目印なども散見されるが、背丈を没するササが密生しているので、少しでもラクそうなところを選んで、登って行くしかない。
 登るというより、ササをつかみ、上半身全体を使って、腕力登りをするという感じ。
 密ザサに足を突っ込むと、抜けなくってひどく消耗する。

 分速5メートルくらいでしか動けないので、距離も高度も、ちっともはかどらない。

 ササ泳ぎのノウハウをまたいくつか、修得した。
 密ザサの急斜面は、四つん這いで歩くに限る。
 二本足で進むよりも、ずっとらくに、素早く動くことができる。

 倒木・枯れ枝は、ササの海では、天の助けだ。
 倒木のあるところは、たとえ数メートルではあれ、足元にササのないところを歩くことができる。
 ただし、倒木上はすべりやすいので、気をつけなければならない。

 枯れ枝が落ちたところは、たいてい、ササが寝ている。
 そういうところは、ササをかき分けようとせず、枝ごと踏んで通るようにすると、思いの外らくに、通ることができる。もっとも、2,3歩くらいのものだが。

 ウグイスやツツドリ、ヤマガラのさえずりが響く中を、じわじわとずり登った。
 ここのササはスズタケなのだが、硬いタケノコを食べたあとが、あちこちにあり、でっかい糞の山も見つけた。
 あまりにひどい密ザサ帯では、クマも行動しづらいらしく、獣の匂いもほとんどしなかった。

 急斜面をよじ登ると、ようやく頂上台地の一角。
 とはいえ、ここも、ササの密ヤブ。
 昨年来たときより、ササが多少薄いような気がしたのは、気のせいか。
 やや曇ってはいたが、高田山、白砂連峰、谷川連峰などが望まれ、コシキの頭の鋭いトンガリが、目の前にそびえていた。

 地形図で見ると、ピークまではわずかな距離なのだが、ササ泳ぎなので、意外に時間がかかり、体力も消耗するし、精神的にも、かなりつらい。

 オオカメノキの咲き始めた尾根から鞍部に下り、最後の登りは、これまたササが密生した、沢の高巻きほどの急斜面だった。
 もうササを握るのはイヤだと叫びたくなるほど、ひたすらササを握って、ピークについたときには、とても充実感があった。

 せまい山頂にもササが密生していたが、草丈が低いので、展望はとてもよく、白砂山から谷川連峰にかけての上信越国境の稜線が一望できた。

 腰を下ろして、ようやくビールにありついたと思ったら、黒い雲が出てき、雨が降り始めた。
 降り出しは夕方という予報だったが、寒気の入るのが、やや早まったようだ。

 すぐに下り始めたが、一気に本降りとなった。
 ガスのため、頂上台地のルートファインディングにやや気を使ったが、来るときに目印をつけておいたので、まちがえずに下れた。

 密ザサの急斜面は、半分転がり降りたようなものだが、三時間半かけて登ったところを、2時間足らずで、とりつきまで駆け下れた。

 下まで降りても小雨もようだったので、遊歩道を急ぎ、小さな東屋まで来て、大休止にした。
 下が乾いていたので、よもや山ヒルはおるまいと思ったのだが、二人の合羽ズボンを、山ヒルがえっちらおっちらと這い登ってきていたので、驚いた。
 いったい、やつらは、どこから出てきたのだろう。

 車に戻ると、靴や靴下にも山ヒルが、いくつもくっついていた。
 からだが濡れたので、すぐ近くにある公衆温泉、「こしきの湯」にはいりついでに、服とからだを総点検したら、おれのパンツにまだ一匹、食い込んでいた。
 まさに、危機一髪だった。

 それにしても、あのたいへんな山に登れて、じつにうれしかった。
 Nさんに、心から感謝したい。