荒沢岳から兎岳へのルートが整備されたという情報は、1年くらい前に目にしていた。
かつては密ヤブの難路と聞いていたので敬遠していたが、ヤブが刈られれば、魅力的なルートである。
荒沢岳にとりついて、前グラを越え、山頂直下の急登まで来ながら、雨のため撤退したのは、21年も前だった。
ようやく、荒沢岳に再チャレンジできた。
荒沢岳から駒ヶ岳周回コースを行くとなると、2泊3日はみなくてはならない。
1泊目は、源蔵山と巻倉山鞍部の"陽の水"。2泊目を駒ノ小屋なら、さほど無理でない。
重荷を嫌って、テントでなくツェルト泊のつもりで出かけた。
1日目 前山の登りで夜明け
 | ブナの道
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ロングコースなので、まだ薄暗いうちから登り始めた。
この前に来たのはずいぶん以前なのだが、周囲の様子はなんとなく記憶に残っていた。
最初は前山までの急登。
早くも汗が吹き出してくる。
背後から陽が昇り、曇り按配ながら雨になりそうにはないので、まずまず安心する。
前山で、腹ごしらえを兼ねて、小休止。
ここから前グラ基部までは、ほとんど平坦なやせ尾根歩き。
ブナやミズナラの大木が生えていて、いいところだ。
ここでは枯れたミズナラをまったく見なかった。
足元には、アキノキリンソウやカシワバハグマ・ミヤマホツツジなどがたくさん咲いていた。
「ここより岩場」という表示のあるところから、いきなり岩混じりの登りとなる。
要所には、鎖やハシゴが設置されているので、危険はなく、気持よく高度を稼ぐことができる。
ミヤマママコナ・ツリガネニンジン・ダイモンジソウ・オヤマリンドウなどが咲き、少し山深くなった感じがする。
前グラ基部で、2度目の小休止。
威圧的な岩壁がそびえている。
ここからは、左に少し下って、岩場の下をトラバースする。
鎖が取りつけてあり、岩が乾いているので、まったく問題なし。
岩から微量の水が滲み出ているので、花も豊富で、タテヤマウツボグサ・イワショウブ・チョウジギクなどが咲いていた。
トラバースの次は、鎖とハシゴの登りだが、天気が悪くないので、ここも快適だった。
本城沢の雪渓を左に見ながら、ネズコの多くなったやせ尾根を行くと、荒沢岳への長い急登。
ここは頑張るしかない。
チョウジギク咲く
 | オニシオガマ
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樹林が切れて、シャクナゲやアカミノイヌツゲなどの潅木帯となる。
リョウブの花やオオカメノキの赤い実が、とても目立つ。
名残のオニシオガマが大きな花を咲かせていた。
せっかくの潅木帯なのだが、ガスが巻いてきたため、展望がなくなった。
リョウブ咲く
 | ゴゼンタチバナの実
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主稜線に出ると、ガスは尾根の北側にあふれていたが、南側は晴れていた。
山頂までは、岩峰をいくつか越えていくのだが、ほとんどはトラバースできるので、さほどたいへんではなかった。
ここから先では、ミヤマコゴメグサがすこぶる多く、駒ヶ岳を下るまで、至るところに白い小花が咲いているのだった。
荒沢岳の山頂はよいところだったが、ガスのため展望が効かないのでスルー。
縦走路に入った。
ガスまじりで、くっきりとはいかないが、見通しがときどき開けるので、まずは快適な道だ。
樹林帯ではゴゼンタチバナの実が色づき、草原に出るとオヤマリンドウがたくさん咲いていた。
足元の草露が目立ってきたので、スパッツ装着を兼ねて、灰吹山で小休止。
ここも展望のよいピークで、下ってきた荒沢岳の南側がよく見える。
灰吹山からは、ぐっと下って、ネズコやコメツガの中をゆるやかに登下降していく。
.1716標高点先の鞍部には、テント1張分の整地されたところがあり、水場へ下ると思しき細い踏み跡もあった。
灰ノ又山へは気持ちのよいササと草原の斜面を登っていく。
灰ノ又山も、好展望のすばらしいピークだ。
南側はすっきり晴れてはいないものの、平ヶ岳の全容が目の前で、燧ヶ岳も見えていた。
これから登る源蔵山は近いが、兎岳へは長い登りが待っており、中ノ岳は気が遠くなるほど遠い。
笹原の源蔵山を巻き過ぎて下って行くと、草原の鞍部に着く。
"陽の水"の水場は、岩魚止沢の源頭で、下り3分程度の好位置にあった。
当初の予定では、ここにツェルトを張るつもりだったが、まだお昼前だったし、翌日は天候が崩れるという予報もあったので、ここでは水を補給するだけにして、先に進むことにした。
オヤマリンドウ咲く
 | ヒメウメパチソウ
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巻倉山を越えると、しばらくは平坦だが、兎岳の登りは長い。
陽に当たると暑いので、潅木帯で少し休んで、最後の登りにかかる。
山頂から少し手前はお花畑で、ハクサンフウロやミヤマキンポウゲ、イワイチョウ、ヒメウメバチソウなどが咲き乱れていた。
花に見とれてしばし踏み跡を失い、ヤブ漕ぎとなって、体力をいくらか無駄に費消したが、すぐに道に戻り、ササと草原の中をようやく、兎岳の分岐。
兎岳は丹後山方面にすぐだった。
ここの展望も絶佳。
利根源流の山々がすぐ目の前だが、肝心の中ノ岳は、まだはるかに遠い。
昔のガイドブックには、兎岳から中ノ岳まで2時間とあるが、それは無理じゃないかと思える。
たおやかな草原の尾根
 | ヤマトリカブト花盛り
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丹後山からの縦走路は、荒沢岳からの道より通行人が多いはずだから、よく踏まれているだろうと思いきや、刈払いがされておらず、ササが完全にかぶったところもあって、スピードが出ない。
一気に下り、小兎から数えて3つ目のピークを下れば最低鞍部だと自分に言い聞かせながら、一つ一つのピークを越えていく。
展望のよいはずの尾根だが、中ノ岳をはじめ、周囲はガスの中で、あまりよく見えない。
潅木帯と草原が交互にあらわれ、ヤマトリカブトやサラシナショウマのみごとな群生も出てくる。
.1768のピークを巻き下ったところが、中ノ岳手前の鞍部なので、一息入れる。
時刻は14時半を回ったが、ここから中ノ岳まで標高差にして約350メートル。
1時間あれば、行けるだろうと思われた。
最後の登りはきつかったが、精神的には楽だった。
最初は潅木帯、そしてガレや岩が目立ってくると山頂が近いと感じる。
十字峡からの道を合わせたところで休もうと思っていたのだが、天気がよくないので、休まず登高を続ける。
よくある感覚だが、もう少しでピークだという期待が大きいと、意外になかなか着かないものだ。
ようやく中ノ岳に着いたが、展望皆無のため、小さな祠や石柱の立つ山頂はスルーして、小屋に向かった。
小屋に着いたときには、バテバテだった。同宿者はもちろん、なし。
この日は水場が少ないので、入山時に2リットル持って行き、源蔵山鞍部までにすべて消費して、"陽の水"で2リットル補給したが、中ノ岳までに500ミリリットル使ってしまい、残り水は1.5リットルと、かなり不安な状態だった。
小屋に設けられた雨水タンクの中がどうなっているか不安だったが、ありがたいことに、ほぼ満タンだったので、水に関する心配は解消した。
レトルトカレーを温めながら、とっておきのアルコール飲料をあけ、食事をすませてシュラフに入ると、あっという間に眠ってしまった。
この夜は、夜中に、空腹のあまり目が覚めた。
この日、頑張ったおかげで、1日分の食糧が余っている。
そこで、夜半に起きだして、ラーメンを食べた。同宿者がいなくて助かった。
2日目
目がさめたのは、4時半過ぎだった。
すぐに朝食の支度にかかったが、すでに、三ツ岩岳~会津駒ヶ岳あたりの空が赤く染まりつつあった。
霧に沈む未丈ヶ岳付近や荒沢岳のシルエットも、美しかった。
早く出発したほうがよいのだが、明るくなると、八海山や駒ヶ岳を始め、谷川連峰・上州武尊山・至仏山・燧ヶ岳などが視認され、飽きない光景が展開したため、出発がやや遅くなった。
中ノ岳から高度を一気に落とすと、檜廊下のやせ尾根。
もっともここに生えているのは、ヒノキでなく、ネズコ・コメツガ・ハイマツだ。
細かな登降が多いので、ややスピードがタウンする。
ササがかぶっているとズボンが濡れると思い、合羽ズボンをはいて小屋を出たのだが、このあたりは、兎岳からの道とは異なり、きれいに刈払いされたばかりで、とても歩きやすかった。
どういうわけか、この尾根には、小さな蛇が多かった。
陽が昇り、荒沢岳が逆光になって、眼下の北ノ又川源流の雪渓がひかる。
今回の山は、北ノ又川水源の山旅だったことに気がつく。
荒沢岳と北ノ又川源流
 | 朝の銀山平
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駒ヶ岳への急登手前の鞍部で一息入れる。
グシガハナ峰から駒ヶ岳への稜線が目の前だが、山腹はほぼ全面的に一枚岩の岩場である。
目を後ろに転じると、八海山を横から眺めることになり、八ツ峰の様子もよく見える。
ここからは急な登りだが、中ノ岳の時と違って朝が早い上、見晴らしもよいので、疲れずに登っていける。
前方に駒ノ小屋と山頂が見えてくると、グシガハナからの道を合わせて、緩やかに登る尾根を少しで山頂だった。
山頂には、役の行者と思しき銅像が立ち、中ノ岳同様に、豪華な展望が広がっていた。
中ノ岳からははっきりわからなかった守門岳や浅草岳もよく見えていた。
ここから先は、下るだけなので、少しゆっくり休んだ。
朝からずっといい天気だったのだが、下山にかかる直前に、駒の湯方面から薄いガスが巻いてきた。
ついさっきまで青空だったのに、空全体が薄い灰色に変わりつつあった。
予報のとおり、悪天の兆しと思えたが、下山するまでは持ちそうだったので、急ぐことはしなかった。
駒ノ小屋へはお花畑の中を下っていく。
リンドウ・ハクサンフウロ・イワショウブ・ヒメウメバチソウなど、ここまでに見た花たちが、美しく咲いていた。
駒ノ小屋下の水場で、500ミリリットルの水を補給。
ここには、枝折峠から登ってきたと思しきハイカー数人がいた。
昨日来、初めて出会った人間だ。
中ノ岳を振り返る
 | 草原に咲くイワショウブ
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駒ノ小屋下は、露岩のある斜面だが、下って行くと、ササの多い潅木帯。
先程は薄かったガスがどんどん濃くなってき、駒ヶ岳の山頂はもう、展望皆無かと思われた。
高度をどんどん下げていくと、下の方に百草の池が見えたが、近くまで行くと、道標はあったものの、立入禁止の立て札が立っていたので、池は見なかった。
相変わらず潅木帯が続き、ところどころに展望のよいところもあって、荒沢岳方面が見えてはいるのだが、すっきりしない。
いつしか傾斜が緩み、ほぼ平坦な道になるので、スピードが出る。
少し登りになって、小倉山下で小休止。
あまり意味のなさそうな木の階段や木道が出てきて、里近く感じる。
下山道に予定していた道行山分岐までも、ほぼ平坦な尾根。
少し登った道行山からも展望が開けているのだが、駒ヶ岳方面はガスで冴えなかった。
かつての仕事道を手入れしたような感じの道だが、刈払いなどはあまりされていないものの、踏み跡ははっきりしている。
急降下を交えながら下って行くとブナ林で、小さなトンビマイタケなども見つかった。
ヤマウルシ色づく
 | トンビマイタケ
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道行山から約1時間で、北ノ又林道に出た。
林道に出る少し前から、ポツポツ降り始めたが、車道に出てからやや本格的な降りとなったので、ザックカバーをつけて合羽上着を着た。
途中、北ノ又川を覗くことのできる場所があったのだが、溯上期とあって、たくさんのイワナが群れていた。
林道には、鈴なりのヤマブドウなども見えていたが、まだ少し若かった。
国道に出て石抱橋の手前に、密猟監視の家があって、中から監視の人が出てきた。
聞くと、北ノ又林道には、通行人を感知するセンサーが何ヶ所かに設置してあり、それが奥から順に鳴ったので、登山者が降りてきたのがわかったという。
すごい設備だが、この監視の人は、どうやって暮らしを立てているのだろうか。
登山口の駐車場まではすぐだった。
北ノ又川の対岸に、いつの間にか、"銀山平森林公園"という施設ができており、温泉の看板があったので、"白銀の湯"で汗を流すことにした。
お湯に入ってゆったりし、汗だくの衣類を着替えると、生き返るような思いだった。
雨は次第に強くなり、駒ノ小屋付近にいたハイカーたちは、難儀していることと思われた。
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