1日目
土用を過ぎてから梅雨前線が復活し、天候やや不順ではあったが、久しぶりにじっくりと北八ツを歩きたくなった。
まだ早い時間だったので、唐沢橋の駐車場はふさがっていなかったが、準備をしていると、自動車が何台もやってきた。
しばらくぶりの重荷を背負って、ミドリ池に向かう。
足元には、ウツボグサ・キバナノヤマオダマキ・チダケサシなどが咲く。
黄緑色のランは、オオヤマサギソウだ。
ズダヤクシュは、ほとんど果穂状態だったが、なかには花の咲いているのもあった。
ひどく暑い日ではなかったが、歩き始めてすぐにラガーシャツを脱ぎ、Tシャツになって登る。
カラマツ林にきのこはほとんど見あたらなかった。
新ルートになってからここを登るのは二回目だ。
さほど苦労でもなかったので、ワンピッチでミドリ池まで行った。
ここまで来ると、ヤマイグチやカワリハツ・ウスタケなどがちらほら出ていた。
天気は上々で、池越しに稲子岳の岩壁がよく見えていた。
小屋わきの餌場では、リスが木の実を食べていた。
ここからは、ほぼ平坦な道を行く。
明るい湿地帯でクリンソウが咲き残っていた以外には、さほど見るものもないが、苔むした針葉樹林は気持ちがよい。
小沢を何本か渡り、小尾根を東から回り込んで越すと、足元にササが多くなる。
ゆるく下っていくと、本沢温泉に行く広い道に出た。
本沢温泉では、何かの建物の建築工事中だった。
夏沢峠への道は、地形図の破線路とはかなり異なっており、いったん小尾根へ登ってからトラバース気味に峠へ至る。
標高の関係か、登山口付近では実になっていたシノバナノヘビイチゴが、ここではまだ咲いていた。
夏沢峠には数名のハイカーがたむろしていた。
オーレン小屋への道が発電用の風車の陰になっていたので、やや困った。
オーレン小屋は、石のごろごろした歩きにくいところを、しばらく下ったところだった。
以前、この小屋前を通りかかったのは、1989年だから、もう24年も前のことになる。
そのときには、クルマユリやミソガワソウが咲いていたと記録にあるが、クルマユリは一輪、咲いていたものの、現在のテント場には、オオバコやシロツメクサがはびこっているのだった。
ここのテント場には、赤岳鉱泉のようにスノコが敷いてあり、雨が降っても浸水しないようになっていた。
また、頼めば、小屋の風呂にも入れてもらえるのだった。
そこそこ疲れたので、テントの中でうとうとしたが、峰の松目までなら行って来ることができたかもしれない。
ほどなく、長野県名物の林間学校登山隊がやってきて、たいへんな喧噪となった。
これは、この時期の信州ではいつものことなので、やむを得ない。
することもないので、早めの夕食にする。
この日は、ご飯とピーマンのラタトゥイユ。紅茶オレと食後に、ガマズミの果実酒。
酒はもう少し、あった方がよかった。
中学生たちが根石岳に行っている間は静かだったが、戻ってくるとまたにぎやかになった。
テント場の西半分で食事をとっていたので、幕営なのかと思ったが、小屋泊まりだった。
寝つくまでは、大声で騒いでいたが、8時半の消灯以後ぴたりと静かになった。
ピーマンラタトゥイユ
| ガマズミリキュール
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2日目
驚いたのは、中学生が午前2時過ぎに小屋の外に出てきて、点呼など始めたことだ。
子どもたちにご来光を見せてやりたいという先生たちの気持ちはわからないではないが、ずいぶん気苦労が多かろうと思われた。
時間からして、硫黄岳をめざしていたのだろうが、彼らがヘッドランプをつけて出発したのは、2時40分だった。
とても眠っていられないので、こちらも仕方なく、食事と撤収にかかる。
この時期だから、早くても4時半に出ればよかったのだが、時間を持て余しても何なので、4時に根石山荘へと登り始めた。
おかげで根石山荘に着いたのは5時ごろで、本来のご来光には間に合わなかったかもしれないが、雲のために太陽はまだ出ておらず、数人の泊まり客が日の出を待っていた。
コマクサの写真を撮りたいので、進むわけにもいかず、じっとしてると寒いので、合羽を着込んでしばらく待機していると、日が昇った。
コマクサはちょうど見ごろだった。
ここから東天狗にかけてが、今回のコースで最も豪快な展望の得られるところである。
背後には、赤岳・阿弥陀岳が顔を出し、足元には南佐久の町並みが望まれた。
蓼科山方面にはあいにく、雲がかかっていた。
花は、ミヤマダイコンソウがすこぶる多く、ムカゴトラノオもよく咲いていた。
ヨツバシオガマ・イワベンケイ・ミヤマオトコヨモギ・ヤマハハコ・ミヤマコゴメグサ・イワツメクサ・イワオウギもまずまずだった。
東天狗までは一投足だったが、ここまで来ると、リンネソウが見たい。
ザックをおろすのも面倒なので、そのまま鞍部に下ると、リンネソウやコケモモがちょうど、咲いているところだった。
西天狗に登り着くと、ガスが上がって来はじめた。
東天狗へ戻ってしばし休み、中山峠へ下る。
森林限界より上部では、イワツメクサやヤマブキショウマか咲いていた。
ここの下りは、石ゴロの上を歩くので、見た目よりいくらか時間がかかり、樹林帯の中の峠に着いた。
中山峠に来たのは3年ぶりだ。
この日はここから、ミドリ池方面に下った。
最初は、鎖が下がっているほど急なところを一気に下り、樹林帯の中の踏みあとを稲子岳に向かってトラバースする。
踏みあとはおおむねはっきりしていて、稲子岳頂上台地への急登以外に、苦しいところもなかった。
赤ザレの頂稜には緑ロープの柵や電気柵が設置されており、コマクサが咲いていたが、花の数は多くなかった。
これは、シカかカモシカが食ってしまったのだろうか。
頂稜からは、眼下にミドリ池が望まれ、東天狗の荒々しい山容が間近に見えた。
コマクサ以外にも、タカネニガナ・イブキジャコウソウ・ミヤマウイキョウなどが咲いていて、いいところだった。
稲子岳からニュウへの道も、おおむね似た感じだったが、ササの生えていない鬱蒼とした針葉樹林は、初秋にきのこがたくさん出そうな感じだった。
ニュウに着いたときにはまだ晴れていたが、到着後数分後には、ガスがかかってしまった。
ニュウから天狗岳や白駒池を見ることができて、幸運だった。
ニュウでまた少し休み、シャクナゲ尾根に向かう。
この道も、1991年以来だ。
白駒池方面へ少し下り、三叉路を右折する。
ここでコイチヨウランがたくさん咲いているのを見た。
オサバグサもいくらか、咲き残っていた。
ハクサンシャクナゲ以外に、花は期待していなかったので、これらの花を見ることができてよかった。
白樺尾根分岐の十字路を右折すると、あとは、淡々とした下りが続く。
沢音が聞こえてくると、白駒林道に出る。
ここは22年前にも困惑したところだが、強引に突っ切るのでなく、しばらく林道を歩いて、カーブの先から登山道に戻るのが正しいようだ。
ニュウから唐沢橋まで、2時間はかからなかった。
稲子湯で汗を流して自動車に乗ったら、ぽつぽつと雨が降り始めた。
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