塩沢スキー場入口に自動車をとめた。
冷たい風が吹いていて、安達太良山は黒い雲の中だった。
登山届を出したのだが、下山届が一緒にくっついているのを、切らずにポストに投函してしまった。
まぁ、しかたない。
スキー場を過ぎたあたりが馬返しで、そこから登山道になる。
雑木林の紅葉がなかなか美しい。
おおむね平坦な道をずっと行き、僧悟台の分岐を過ぎて、湯川沿いの道を行く。
ブナの壮年木もあるが、きのこはもう、終了したようだ。
ずっとよい道だが、沢の屈曲部は岩が出ていて、トラバースするのに鎖に捕まらねばならない。
小沢を何本も渡るので、このルートは水には不自由しない。
屏風岩は、とてもよい展望台だ。
黄葉は終わりかけだが、眼下には立派な滝がかかり、かなり増水した流れも堂々たるものだ。
名のある滝がいくつもあり、沢に降りる道がついているのだが、登山道はかなり高いところにつけられているので、滝見に行くと時間がなくなりそうだった。
いつか滝を見に来たいものだ。
八幡滝まで来ると、沢身近くに下り、渡渉が始まる。
渡渉点は全部で六ヶ所あり、うち一つは橋が壊れていたが、飛び石で渡れた。
問題は、雨が降り出したことで、雨具上下を着用しなければならないほどの降りになった。
最後の渡渉を過ぎると登りになり、奥岳からの広い道に合する。
これは27年前に歩いたはずの道だが、記憶はもちろん、ない。
その先すぐに、くろがね小屋に着いた。
風は冷たかったが、雨は小降りになり、ここまで休まず来たので、丸太に腰掛けて大休止。
くろがね小屋にはジムニーがとまっていた。
煙突からは煙が出ていて、小屋の中は暖かそうだった。
風と寒さでお湯の湧きがやや悪かったが、大きな問題はなし。
本峰へ向かう道はいったん小尾根へ上がり、トラバース登りで峰ノ辻に至る。
風が少し強くなってきたが、雨はあがったようで、何よりだった。
春に来た時はこのあたりはほぼ全面的に雪に覆われていたことを思い出す。
峰ノ辻から少し下れば、本峰が見えてくる。
登山道には雪もちらほら見えてきて、このシーズン始めて、雪を踏む。
山頂周辺にはハイカーが蝟集しており、ここまで登山者にほとんど会わずに来たので、どこからこんなに大勢のハイカーが集まってきたのかと思うほどだった。
風から身を隠す場所もないので、北側へ降りる岩場を下り、鉄山に向かう。
ここからしばらくは、安達太良名物の強風に晒されながら尾根を行く。
自動車にストックを置いてきたのが悔やまれるほどの風に耐えながら行くが、27年前と同様一度だけ、風に飛ばされた。
雨は完全にあがり、ガスの切れ間から沼ノ平が望める瞬間もあって、よかった。
鉄山前後は風が遮られるので、ほっと一息つけるが、再び尾根に出れば再び強風が吹きつける。
ガスの中、見覚えのある場所にたどり着いたのだが、そこで初めて鉄山避難小屋が改築されたことを知った。
二重ドアと広い窓のある鉄山小屋に入ってみると、そこは強風の尾根とは別世界だった。
以前の小屋はまことに小さなものだったが、今の小屋はかなりの人数が宿泊できそうな、立派な小屋になっていた。
ここで小休止。
意外に早くここまで来ることができたので、まったりとティータイム。
避難小屋から僧悟台分岐までは、少しの下り。
安達太良連峰の最高峰は、意外なことにここから登り返した箕輪山なのだ。
分岐には、このコースは整備しないので心して下れという表示がされていたが、わかりにくいところは特になかった。
小沢を何本か渡り、尾根に乗れば緩傾斜の下りが延々続く。
遠くから見るとブナ林かもと思われたが、ネマガリタケとダケカンバの林で、展望もない。
地形図に僧悟台とあるあたりもやはりササ原だが、霧降滝分岐という道標があり、滝方面への踏み跡が柵されていた。
同じような下りが続くが、見晴台(展望なし)を過ぎてしばらくで、急下降になる。
このあたりは踏み跡がわかりにくいところもあったが、トラロープなどで整備されていたので問題なかった。
急な斜面をジグザグに下っていくと、下部の雑木林ではカエデ類が美しく紅葉していた。
湯川近くに降り立ち、しばらく行って草履沼というあまり美しくないたまり水を過ぎると、ちゃんとした橋があって、ほどなく馬返しで元の道に合流した。
塩沢温泉の建物は廃墟化しつつあったが、国道に出るところに旅館青木荘があり、気持ちよくあたたまることができた。
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