好天に恵まれた秋の縦走
−那須連峰−

【年月日】

1995年10月14日
【同行者】 2人
【タイム】

10/14 山麓(11:48)−峰の茶屋(12:32)−清水平(13:40)−
   三本槍岳(14:10)−須立山(15:01)−坊主沼(16:00)
10/15 坊主沼(6:33)−甲子山(8:00)−甲子温泉(9:22)−新甲子(11:05)

【地形図】 那須温泉、甲子山

 新甲子温泉近くの路側に自動車を停めた。時刻は6時。
 冷たい空気の中、年配の宿泊客がゆかた姿で散歩している。

 白河行きの一番バスは6時58分発なので、ここでゆっくりと身支度と腹ごしらえ。
 白河駅でバスを降り、JRの切符を買ったとたん、上り列車が発車。
 ここはバスの到着時刻と列車の発車時刻が同時になっているのだ。

 ずいぶん客を無視したダイヤの組み方だと思っていると、約1時間後にやってきた列車は次の新白河駅で5分くらいも停車した。
 こんなことなら、新白河でバスを降りるのだったが、事前の下調べが不足していた。

 車窓から那須連峰がくっきりと望まれ、茶臼岳がひときわ高く見えた。
 黒磯駅で電車から降りると、いろいろな駅弁を売っていた。
 ヤマメ寿司というのがおいしそうだったので、1000円出して買った。

 駅から出ると、登山姿の中高年が大勢たむろしていた。
 快晴で登山日和ではあるが、山の大混雑が予想された。
 山麓行きのバスはすでに満員で、廊下に立っているしかなかったのだが、観光バスのため吊革がなく、立ってられないのでザックをおろしてその上に座った。

 10時40分に山麓に着くはずだったが、山に向かうマイカーの渋滞に巻き込まれ、バスは遅々として進まなかった。
 この日のうちに坊主沼まで行き着かなければならないので、これでは困るのだが、どうしようもないので、バスの中でずっと本を読んでいた。

 温泉街を過ぎると、路上駐車のマイカーのためにバスが事実上の片側通行となり、またも大渋滞。
 山麓に着いたのは、結局1時間遅れの11時40分だった。
 バスの遅れのために日程がずいぶん忙しくなった。

 ロープウェーで登って徒歩で降りてくる家族づれなども多いので、こっちのルートもけっこうなにぎわいだ。
 朝日岳の急斜面の小灌木が紅葉していてまことに美しい。

 峰ノ茶屋もたくさんの人で、腰を下ろす場所もない。
 巻き道の使えなかった春に登った剣が峰の直登ルートは、急傾斜の上石が浮いていてかなり恐ろしいところだ。
 ここで食べた黒磯駅のヤマメ弁当は、1000円の価値が十分にあった。

 観光客の人々がこのあたりにも流れてきているので人通りが絶えない。
 朝日岳に向かってぐんぐん登ると春に登行を断念した鎖場。
 今回は道が出ているし、鎖も使えるのでまったく問題なく通過できる。

 そこを過ぎるともう一ヶ所鎖場があったが、こっちはそれほど危ないところではなかった。
 春にここを通れなかったのは残念だったとつくづく思い返した。

 ほどなく朝日岳直下のT字路。
 ここには峠ノ茶屋という道標が立っているが、峰ノ茶屋同様、茶屋らしいものは何もない。
 峠ノ茶屋から朝日岳まではものの5分ほどだった。

 朝日岳の頂上はせまいが石のごろごろした感じのよい場所だ。
 もちろん360度の大展望。
 噴煙を上げる茶臼岳をはじめ、三本槍岳や隠居倉、清水平、甲子側の旭岳などが近く望まれる。
 ゆっくりしたいところだが、石という石に人が腰かけているため、早々に縦走路に戻る。

 清水平への道は、ドウダンツツジやシャクナゲ、ハイマツ、ガンコウランなどの低木が密生する中の道だが、オーバーユースらしく荒れている。
 ナナカマドの実が真っ赤に熟れて美しい。

 清水平は小さな湿原だが泥炭層が破壊されて火山灰土が露出している。
 巾1メートルほどもある木道が敷かれているが、泥炭層への立入禁止を徹底しないとやがてガレ場化するだろう。

 北温泉への分岐を見送り、スダレ山を緩やかに登る。
 ここは山頂直下で左に下り、三本槍岳への登りにかかる。
 旭岳が近くなり、迫力のある山容が迫ってくる。

 三本槍岳は本日の最高峰だが、たいした登りではなく、またも大展望。
 行き先に見えるのは旭岳で、次のポイントである須立山ははるか目の下にあるはっきりしないピークだ。
 中ノ大倉尾根がずいぶん近くなったが、のびやかな稜線が連なる、魅力的な尾根ルートだ。

 ここから北に向かう下りは、急な上、赤土が深くえぐれたずいぶんな悪路。
 ササの下生えの中、強風のためにねじれたようなダケカンバの大木が点々としている。

 左下にきれいなブルーの鏡沼。
 沼の青さととりまく紅葉とがすばらしいコントラストだ。

 鞍部からひと登りで須立山。
 三本槍岳から見るとぱっとしなかったピークだが、登るとなるとそれなりの高さに感じる。
 ここの展望もすばらしい。
 この日歩き始めたときには数千人の観光ハイカーと一緒だったが、さすがにこの時間にここまで来るとピークにいたのは男性2人だけだった。

 須立山の下りは崩れやすい急傾斜のガレである。
 工事ロープが張ってあるので、それにすがって降りていく。
 いくつかの小さなコブを越えていくが、あたりはササとヒメコマツの植生に変わる。
 笠ヶ松という道標のあるあたりでは、尾根の左側から右側へと曲がりくねったヒメコマツの幹が、風の通り道だということをものがたっている。

 やがてマツがブナに代わる。
 風の通るところのブナはあまり大木に成長できないらしく、低木が多いが、この夏の好天が影響したものか、びっしりと実をつけていた。

 旭岳東側のトラバースはササを切り開いた歩きにくい道だが、すぐに湿地のようななところに出、前方が開けると坊主沼に着いた。
 坊主沼は小さな沼で、ほとりには赤い屋根の避難小屋が建っていた。  おりしも絶壁をまとった朝日岳の東斜面に夕日があたって、灌木の紅葉をひときわ鮮やかにしていた。

 先客は若い男性が1人、あとから来る2人とあわせて5人が今夜の泊まり客となった。
 水場のない小屋だが、食事用の水をペットボトルに2本背負い上げてあるので心強い。
 満腹になると明け方からの行動の疲れがどっと出てき、眠くなったので、まだ明るかったが、シュラフに入って寝てしまった。

 標高がかなり高いので日がかげると急に寒くなる。
 季節を考えて夏用のシュラフに羽毛のインナーシュラフを重ねて使ったのでちっとも寒くなかった。

 翌朝は他の宿泊者がごそごそし出したので目が覚めたが、明るくなる6時過ぎまでじっとしていた。
 ラーメンを食べ、身支度をして小屋の外にでるとこの日も雲一つない快晴。
 尾根の上に出るとすぐに水場への分岐だが、飲料水はまだ残っていたので、寄らずに行く。

 ブナが多くなるとずいぶん歩きやすい道。
 甲子山が近くなると、ガマズミに似たたくさんの赤い実をつけた木を見つけた。
 葉はほとんど落葉していたがサクラを小型にしたような形だった。
 時間もあることなのでゆっくり摘んでいくことにした。
 家に帰ってから調べると、これはアズキナシだった。

 しばらく行くとまたアズキナシがあったので木に登って摘んだ。
 甲子山まではすぐだった。

 甲子山からはこの山行最後の大展望が得られた。
 背後の旭岳、会津側には鎌房山、さらに向こうには二岐山。甲子峠の向こうには、林道による傷あとの痛々しい大白森山などが望まれた。
 また、旭岳から東側の阿武隈川の源流には、ブナの原生林がかなり広範囲に残っていた。

 甲子山から甲子温泉への下りは、一般ハイキングコースといっていいほどよく整備された歩きやすい道。
 下りはじめてすぐに甲子峠への道を分け、緩やかな尾根を下っていく。

 15分ほど下ったところが猿ヶ鼻で、そこから傾斜が急になって大きなジグザグの下りとなる。
 あたりはブナとミズナラの自然林だが、キノコはホウけたトンビマイタケやツキヨタケがあっただけだった。
 ジグザグ道のそこここにショートカットの道がつけられていたので、近道をどんどん下ると、1時間ほどで甲子温泉のすぐ上に下り着いた。

 衣紋滝や白水滝、温泉神社といった道標があったが、白水滝にだけ行ってみたが、堰堤と堰堤にはさまれたなんということもない滝だった。

 甲子温泉の前には自動車がたくさん止まっていてなかなかにぎわっているようすだったが、入浴を頼むととても快く入れてくれた。
 それだけでなく、ザックを預かってくれたり、必要なら白河までマイクロバスを出してあげようとまで言ってくれた。山の温泉でこれほど親切な宿は珍しい。

 甲子温泉の大浴場は基本的に混浴だが、女性はみんなとなりにある女性専用風呂に行くので、事実上男性専用となっている。
 河原に湧いた源泉の上にちょっとした建て物を建てたという風情で、源泉が48度という割には少しぬるかったが、いかにも湯治場的ないい湯だった。

 汗を流して着替えをすませたが、新甲子まであと1時間の車道歩きだ。渓流沿いの国道二八九号線は行き止まりの道路だが意外に自動車の通行量が多い。

 自動車のところに着いたのは11時過ぎだった。