春の桐生川源流
−根本山から三境山−

【年月日】

1996年5月3日
【同行者】 2人
【タイム】

石鴨先(7:19)−沢出合(8:13)−奥の院(9:33)−根本山
(10:09-10:38)−山分岐(12:00)−三境山(12:45-1:04)
−屋敷山沢分岐(1:27)−三境林道(2:00)−石鴨先(3:07)

【地形図】 沢入 概念図(ポップアップで開きます)

根本沢の流れ

 しばらくぶりで桐生川沿いの山歩き。

 桐生川ダムを過ぎ、道路幅が細くなると、釣り人や川遊びをする人の自動車が至るところにとめてあり、さすがゴールデンウィークらしい混雑ぶりだ。

 下山予定地がはっきりしないので、石鴨と不死熊橋の中間あたりに車を止め、ゆるゆると根本山に向かった。

 車道のわきでは、ムラサキケマン、タチツボスミレ、ウシハコベなどが咲いており、ヤマブキやモミジイチゴの花も満開だ。

 不死熊橋からは根本沢沿いの登山道にはいる。
 中尾根にくらべるとハイカーがずいぶん少ないような感じだが、登山道の風情は根本山をめぐるいくつかのルートの中ではダントツにすばらしく、水量豊富な渓流と明るい自然林がどこまでも続いている。

 オオタチツボスミレ、マムシグサ、ヒトリシズカ、ワチガイソウ、エイザンスミレなど、春の花がたくさん咲いていて、見るものにはこと欠かない。
 ヒメウツギのつぼみも至るところにあって、ヤマブキの次の道ばたの主役もスタンバイだ。

 ヒトツバエゾスミレもあちこちで花をつけていたが、ナルカミスミレといえる個体があったかどうかはわからない。
 私は花の撮影でけっこう忙しい。

 道はやがて左岸を高く巻く。
 このあたり根本沢はゴルジュの連瀑となっているらしく、なかなかの瀑音が谷に響いていた。

 ふたたび沢身におりると、チャルメラソウ、トウゴクサバノオ、ヤマエンゴサク、シロバナエンレイソウ、ニリンソウなどが林床に点在する。

 アザミ、ダイコンソウ、ソバナ、トリアシショウマなど夏以降の花はまだ芽を出したばかりだ。
 トリアシショウマとモミジガサとサラシナショウマはお昼のおかずによさそうなところを摘んでいく。

 約一時間歩いた二俣で小休止。
 キットヤ沢というプレートが下がっているところだ。
 ミソサザイがあちこちでさえずっているが、姿は見えない。

 小さな支流をいくつか分けていくと、流れはしだいに弱くなってくる。
 高い滝がないのでイワナがまだいるかもしれないが、十五センチまで育つのは無理だろう。

 コンロンソウがもうすぐ咲きそうだが、ハナネコノメ、ヨゴレネコノメ、ミヤマキケマンは終わりそうだ。
 道ばたで赤花のヤマエンゴサクを見つけた。

 ほぼ同水量の支流を左に分けると、古そうな石造物が増えてくる。
 沢ではツツドリやヒガラが、そして尾根ではコマドリが高らかに鳴いている。

 沢沿いに弘化四年に建てられた石階供養塔がある。
 石階供養塔とは石段の安泰を祈って建てられたものだ。昔の人はみずから作った石段にたましいを入れ、根本山の奥宮へ参詣する通行人の安全を祈ったのだ。

 北海道の豊浜トンネルの崩落に際して「ルート選定に誤りはなかった」と居直った建設省・開発局と、道の安全を祈らんがために重い供養塔を運びあげた古い人とのこの落差・・・。
 日本という国は、百年前に戻って出直した方がよい。

 その先、石灯籠がでてくると沢は源流となる。
 同水量の二俣を右にはいると、両岸岩場で、右からルンゼが入り、すぐにまた二俣で、なかなか飽きさせない。

 ちょっとした岩場には鉄バシゴがかかっているが、これがまた歴史を感じさせる打ち物のハシゴで、小さな文字でなにかしら経文のようなものが彫りこんである。
 このハシゴは田沼町?の重要文化財モノではないのかなあと思いながらも、ありがたく通過。
 石柱と首の欠けた地蔵様を見て、奥の院への岩場にとりついた。

 ここは神社のはずだがなぜか新しい梵鐘がある。
 まあそんなことはどうだっていい。

 奥の院に一礼し、連続する鎖場をよじ登る。
 ここは一気に高度がかせげるので気持ちよい。

 尾根に上がると待望のアカヤシオがピンクの花をつけていた。

 峰の平からいったん下って黒坂石分岐、そこから十字路まですぐだった。
 十字路から少しの急登で山頂の肩、林床にマイヅルソウが芽生えているが、木々は冬姿からあまり変わりないようすだ。

 枝越しに日光連山、奥白根、錫、皇海、袈裟丸連峰が望まれる。
 風がやや強いが、いい天気だ。

 今年三回目の根本山山頂。
 一回目は野峰から十二山経由で登って中尾根を下山、次はたぬき山から縦走してきて北尾根をヤブコギ下山、全部別ルートで歩けてうれしい。

 道々摘んできた山菜と自家製キノコをいれたうどんを作る。
 さすがにハイカーが多く、あちこちで敷き物を広げてくつろいでいるグループがにぎやかだ。

 急な登りの疲れをいやしたのち、三境山に向かう。
 峰の平の分岐は三叉路になっていて、カラマツ林の中を北にトラバースしていくのが縦走路だ。

 鎖場を過ぎ、尾根に出ると快適な雑木林の中の登降が続く。
 足元にクモの巣がまだ張ったままなので、今日このルートを通るのはけものを含めてもわれわれが初めてだということがわかる。
 最近の山は、人の多いところと少ないところの差が極端だ。

 何年かまえ、今日と同じ日に鳴神山に登ったとき、アカヤシオはあらかた散っていたのだが、この尾根にはアカヤシオはないのだろうか。
 そんなことを思っていたら、今年初めて聞くセンダイムシクイが「チョットハヤカッタゼェイ」と解説してくれた。

 石祠のあるピークを過ぎ、鉄索の残骸を見てしばらくでたぬき山への分岐点。
 ここでまた小休止。

 たぬき山分岐から三境山までは傾斜が少なく、らくなところ。
 途中、座間峠から来たというご夫婦とすれちがう。
 座間峠から根本山まで? これもなかなかすごい。

 三境山のとがったピークが近づくと道はやや不鮮明になるが、最後の急登あたりからまたはっきりした踏みあととなり、アカヤシオの花がずいぶん多くなってきてうれしい。

 緑の少ない足元にヤブカンゾウの芽があざやかに見えてくると、ほどなく三境山に到着。
 相変わらず静かで、美しいピークだ。

 コーヒーをわかし、菓子をつまんでのんびりする。
 越冬からさめたキタテハが舞っていた。

 三境山南面の石がごろごろしたところの風情は秀逸だ。
 ミズナラはまた芽吹いていないが、明るい林床にアケボノスミレが点々と咲いていた。
 腰をおろしてゆっくり写真を撮っていたら、下の方で同行者の呼ぶ声がした。

 ここからの下山ルートは問題だ。
 ほぼ地形図通りの道があるのはわかっていたが、先日見つけた「屋敷山沢から石鴨」の道を調べてみたい。
 そこでナラの大木のある鞍部から登りかえし、例の踏みあとを下ってみた。

 分岐からしばらく尾根の上を下っていくと、すぐに新しいヒノキの植林地に出る。
 すばらしい根張りの野峰が真正面にそびえており、なかなかのビューポイントだ。

 植林地を過ぎると踏みあとが消え消えになり、カタクリの群落となる。
 花期はとっくに終わっているが、一輪だけ咲き残りがあった。

 カタクリを避けながらしばらく行くと、植林のための作業道に出合う。
 これは無視してさらに尾根上のヤブを行き、結局三境林道まで尾根を下った。

 テレビなんかが捨ててある、ガードレールつき完全舗装の三境林道をしばらく行くが、自動車の行き来がけっこう激しいので、屋敷山沢への林道支線工事をしているところから沢沿いの砂利道に入る。

 最初の堰堤を巻き下ったところのスギ林に白いぼんぼりのような花が無数に咲いていた。
 なんだろうと思って近づいてみると、ミツマタの花だった。
 むかし栽培されていたものか、一帯はミツマタの大群落となっており、こっちの道に入ってもうけものをした気分だった。

 さらに下っていくと簡易水道のパイプに沿う朽ちた木馬道。
 キランソウ、ワサビ、コンロンソウなどを見ながらどんどん下っていくと、意外なことに、そば屋の庭に出てしまった。

 あとは、馬頭尊の石仏を見たり、滝の写真を撮ったりしながら自動車のところまで戻るだけだったが、相変わらず狭い道に車があふれていた。