また木が伐られてた
−座間峠から三境山−

【年月日】

1996年1月30日
【同行者】 単独
【タイム】

童謡ふるさと館前(10:36)−座間峠(11:39-12:01)−残馬山
(13:11-13:26)−三境山(14:27-14:39)−貯木場下
(15:11-15:13)−MTB−童謡ふるさと館前(15:34)

【地形図】 沢入、上野花輪 概念図(ポップアップで開きます)

残馬山から望む三境山

 自動車で三境林道をつめていくと、貯木場の少し手前の広くなったところに立入禁止の立て札がある。そこにMTBをロックし、車を東村の「童謡ふるさと館」の駐車場にまわし、座間峠をめざして歩き始めた。

 ウィークデーとあって「童謡ふるさと館」への入館者はいないようだったが、何の意味があるのか、童謡をスピーカーで周囲に流していた。広い駐車場にとめられた自動車は私のだけだったのだが、この騒音はまさか「客がきた」という合図ではなかったんだろうな、とやや不安になった。

 座間峠の入口には東村で建てたりっぱな道標が立っているのですぐにわかった。そこからはコンクリートを流した幅のせまい林道にはいる。両側がスギの植林で、一部には植えたばかりの新しいスギ植林もある。最近の新しい植林地はヒノキが多いので、ちょっとめずらしい。成長した植林地もあって、下草刈りは不十分だが、枝打ちはちゃんとしてあり、なかなかいいスギ林である。

 地形図で見る登山道はほぼそのとおりの位置だが、尾根にとりつくすぐ手前までが現在は林道になっている。やがて座間峠から北に伸びる尾根に上がるが、相変わらず植林が多く、展望は開けてこない。

 ちょうど1時間で落ち葉の散り敷く座間峠に着いた。南に下る道も鳴神山への道も健在のようだった。風が強いので少し南に下って食事にする。家を出たときにはよく晴れていたのだが、冬型が強まりすぎたために、赤城や袈裟丸方面にあった雪雲がしだいにこちらに押し出してきていた。

 残馬山方面へ歩きだすが、雪があるためか、踏みあとはあまり明瞭ではない。冷たい風が顔に当たって耳が痛いが、ツツジ類の下生えにコナラが点在する自然林の中の登りは気持ちがよい。若いブナやシラカンバも混じっている。

 尾根が90度北に曲がるところからは、左が雑木で右が若いヒノキ林となる。このあたりからしばらくは道形がほとんどなく、ずっとヤブこぎだ。一○○八メートルピークから九五六メートルピークにかけても同様のヤブだが、樹間から残馬山、三境山、根本山などが見え隠れする。雪雲が草木ダムにまで降りてくると風花が飛んできたが、すぐにやみ、また青空がのぞいた。

 九五六メートルピークあたりから先は道形がかなりはっきりしてき、歩きやすくなる。このあたりにはリョウブの木が多いが、シカによるらしい食害がめだつ。しだいに近づいてくる残馬山は、スタイルはいいとはいえないが、頂上直下はなかなかの急登で、灌木越しに北側の展望がよい。真下に見える林道は柱戸川に沿うものだが、ガードレールつきのりっぱなものだ。この道は三境山から西に伸びる尾根へとはい上がっており、たぶん尾根を越えている。また、その向こうのたぬき山の尾根にも地形図にない林道が伸びて山腹を切り裂いていた。

 残馬山は西側が植林におおわれた平凡なピークだった。ここまでの登りは立ち木に助けられながら両手両足を使って登るようなところだった。いかにも山登りらしいこんな登りは久しぶりだ。私はヤブこぎよりも急な登りの方が好きなのだろう。とても気持ちがよかった。

 三つの峰を持つ残馬山から急降下していくと、一ヶ所だけだが、植林も雑木林も切れて樹高の低いツツジ類しか生えていないところがある。ここだけ気分は西上州という感じだが、北側の展望が一気に開ける。すぐ前には三境山がそびえているのだが、鋭くとがっていてなかなかいい山だ。北から見るといい形の根本山は、南から見ると海坊主の頭だ。根本山から野峰までの稜線も見えるが、野峰はやはりどっしりした根張りのある山だ。ここでまた丸岩岳の林道に目が行ってしまった。どうもこのへんは今さかんに造林か伐採が進んでいるらしい。今はもう造林を行う時代ではなく、いかにして「環境林」を国民のものにしていくかをもっと議論すべき時代なのではないのだろうか。

 一時はガスの中に入ってしまった袈裟丸連峰がちょうどここで顔を出してくれたのでうれしかった。

 九八七メートルピークを東村から桐生市へ越える登山道は見つけられなかった。その先、一○○五メートルほどの標高点のないピークで屋敷山沢から石鴨におりる明瞭な踏みあとを分け、コナラの大木を見るといよいよ三境山への登りにかかる。

 ここの登りはこの日のコースの中でもっとも美しいところだった。遠くから見てもわかるのだが、三境山の頂上部は植林がされておらず、自然林である。たぶん傾斜がありすぎて植林に不適だからだろう。もっとも木の大きさはだいたいそろっており、おおむね20年から30年生くらいの雑木の二次林で、コナラ、ミズナラ、アカマツ、クリその他が混生している。登りは急だが、大きな石が積み重なっていて、ちょっと見ると火山の山頂近くのようでもある。とにかく、じつに風情のいいところだ。

 山頂は樹林におおわれ、展望はないが、石宮の置かれた明るいところだ。日だまりハイクでもあれば昼寝をしたくなりそうなところだが、この日はそんなわけにもいかない。お茶の沸く間にも西からの風が吹きつけ、体が冷えてくる。早々に立ち上がり、下山にかかった。

 「沢入」の地形図では登山道は山頂をエスケープしている。しかし、この登山道の位置そのものが実際とちがっている。とはいえ、地形図しかたよりになるものがないので、とにかく地形図にあるとおり、三角点から西北にガケ状のところを木の枝につかまりながらおりて、西北の台地におり立った。地図にある道は存在しないようだったが、ここは地形図どおりに行くしかないので、カラマツの植林のあるところから、ひどいヤブの中を沢状のところへ強引に下った。

 折しもふたたびガスが巻いてき、今度は本格的な雪降りとなった。沢には「三境沢」と書かれた小さな杭があり、ちゃんとした山道もあったが、この道は山腹をトラバースしていくような感じなので、三境沢をまたも強引に下っていくと、しだいにはっきりした道形が出てき、氷結した道をほんのしばらくで標高八○○メートルにある貯木場に出た。地形図にある家屋記号はこの貯木場で、すぐ前からたぬき山の林道が分岐していた。

 ここの貯木場にはりっぱな丸太が積み上げられており、作業員の人が積み出し作業をやっていた。丸太を見ると、スギ丸太とは別に、ナラ、クリ、サクラ、シデ、ブナなど、自然の木もかなりあり、それ以外に名前のわからない大木もたくさんあった。20年生程度のナラはシイタケ用に使うのか、別にして積み上げてあったが、今日一日歩いても何本と見なかった、おそらく50年は越えているであろう大木の山を見るとじつに無惨で、悲しい思いにさせられた。自然林を切るのはもうやめてほしい。

 貯木場の先からは童謡ふるさと館まではMTBに乗って帰ったので、時間的にはあまりかからなかった。