キンコウカ咲く田代山と雨の帝釈山

 【年月日】  1991年8月1日
 【パーティ】 単独
 【タイム】  猿倉口(6:45)−小田代(7:35)−太子堂(8:10)
          −帝釈山(9:20)−猿倉口(11:50)
 【地形図】 帝釈山、檜枝岐、湯西川、湯ノ岐

田代山湿原
 ようやく東北南部の梅雨が明けた7月31日、南会津の展望の峰をまわってみようと、ジムニーで南会津へ。

 鬼怒川沿いの道は、空気は樹林によって冷やされ、涼しくて気持ちがよい。
 鬼怒川温泉で夕立に遭ったのも、夏の到来を感じさせた。

 川治温泉の手前で栗山方面へ左折して田代山登山口へ。
 ダートで部分的には荒れたところもあるが、おおむね道は悪くなかった。
 尾根から福島県側にしばらく下ったところが猿倉登山口。この日は、ここでテントを張った。

 4時をすぎてから遅い食事をしていると、急に夕立がやってきた。山の雨らしく、叩きつけるように落ちてくる。
 テントを張った駐車場にもいくらか水が浮いた。雨は6時すぎにいったんやんだが、その後は雷が鳴りだし、夜半まで続いた。
 明るい間はウグイスとコマドリの声が聞こえていたが、日が暮れると雷の音だけになった。

 明け方に雨は一応あがり、ホトトギス、コノハズク、ヨタカの声とともに夜明けとなった。
 ゆっくり食事をし、6時45分に歩きだす。
 センジュガンピやソバナが咲いていた。ソバナの花がずいぶん大きく感じられた。深山のソバナだから大きく咲くのだろう。
 すぐに尾根にとりつくので多少は急だが、さほどのことはなく、どんどん高度を上げていけた。
 ガスってはいるが、近くの山はまだ見えていたので、頂上に着いたら「日光」の地図でゆっくり山座同定をしようと、まわりの山を横目にひたすら登った。

 1時間たらずで傾斜がゆるくなり、木道になると、小田代湿原。
 その名のとおり小さな湿原だが、キンコウカが一面に咲いており、形容しがたいすてきな場所だった。
 アキノキリンソウ、イワショウブなども咲いており、モウセンゴケも生えていた。
 いろいろな山に登ったが、なんといってもこういう景色がいちばん好きだ。

 通りすぎるのが惜しいような小田代を過ぎ、再び登り。
 急な登りを15分ほどで田代山の頂上湿原。
 植生は小田代とほぼ同じだが、比較にならない広さだ。頂上の周囲にいくらか潅木が生えているが、見渡すかぎりの湿原だ。
 原が黄色く見えるほどにキンコウカが満開。
 木道の上をゆっくり歩く。山上には自分以外だれもいない。
 静かな湿原。この静けさは尾瀬にはない。
 こんなによい山もめったにないと思う。
 ニッコウキスゲ、タテヤマリンドウなども咲いていた。
 ここのモウセンゴケは尾瀬のと違って、普通のサジバノモウセンゴケだ。それらを見ながら湿原を横断すると、大きく伸びたミズバショウの葉があらわれ、湿原が終って再び樹林。
 そこに太子堂があった。小綺麗な避難小屋で、奥に何やら祀られており、床にはむしろが敷いてあった。ここで少し休み、帝釈山へ向かった。

 天気予報では曇り時々晴れだったのだが、太子堂の裏を下っていくと、いきなり強い雨が降りだした。
 ザックをおろして一番上に入れた雨具を出している間に濡れるほどの急な降りであった。
 田代山の下りではオサバグサがすこぶる多い。花はもちろん終ったあとである。ハリブキも多く、実が赤く色づいていた。咲いていたのはカニコウモリの陰気な花だけだった。

 地図では二つほど小ピークをこえるようになっていたが、ガスのためはっきりわからなかった。道も必ずしも尾根の上についていないので樹林の中をひたすら歩く感じだが、踏みあとははっきりしており、しるしや道標もちゃんとしていた。
 沢状になった鞍部を渡り、針葉樹が何本も倒れて道をふさいでいるところを過ぎると、ネマガリタケの中に針葉樹の若木が生えた斜面のはっきりした登り。
 最後は山の南側を巻くように登るのだが、雨が非常に強くなり、昨夕のように叩きつけるような降りになってきた。
 ここのところ雨ばっかりなのでほとほといやになってくるが、帝釈まであと10分という道標を見て引き返すのも惜しい。
 帝釈山の頂稜には大きな石がいくつもあり、晴れていれば最高なのだが、どしゃぶりの雨のなかでは歩きにくい。
 頂上の展望は当然皆無、三角点を見ただけで、すぐに太子堂まで戻った。